さそり座
苦しみの昇華
魅力の本質
今週のさそり座は、『マダムX美しく病む春の風邪』(高柳重信)という句のごとし。あるいは、まとった神秘の中にすすんで包まれていこうとするような星回り。
「マダムX」とは、行きつけの酒場の女主人のこと。かつて日本には色んなことをフランス風に呼んでみせる文化があって、今ならただあっさりと「ママ」と呼んですませるところですが、作者の場合はそうはならなかった。
おそらく、会話の枕に天気の話をしたついでに、マダムの体調を案じる言葉でもかけたのでしょう。「マダム」という言葉には呼ぶ側にどこか相手の奥に潜む素性を想像させる引力のような働きをするところがあって、しかし客としての分を超えることはできず、ただ胸のうちで「X」と付け足してみせたのかも知れません。
単なる風邪の症状だって、いつも以上に悩まし気に映るものであり、作者は酒以上にそうした雰囲気に酔っていたし、それでいいと思えた。そういう意味では「マダム」という呼称に伴う役割には、そういう雰囲気を醸し出すことも含まれていたのだという気もします。
3月21日に春分、そして22日にさそり座から数えて「適応」を意味する6番目の星座であるおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、春の宵を過ごすのにふさわしい役柄に徹してみるといいでしょう。
人間の向上とは何か
「整体」という言葉の産みの親である天才的治療家の野口晴哉(のぐちはるちか)は、語録集『偶感集』に収録された「雨」という断章の中で、「人間の生きているのは苦しむ為だ。その苦しむことが楽しくなる迄、生きていることを養生という」と述べています。
これに対しては、犬や猫や他の生き物はみな苦しければ逃げるのに、人間だけがそうしないのは本能が壊れているからだという指摘もあるかも知れません。
しかし野口は関東大震災を経験していましたから、そのことはよく分かった上で上記のように述べたのでしょう。そして、こう続けるのです。
人間は自分の心身が苦しいことだけが苦しいのではない。他人の苦しみにも苦しむ、世界の一切の動きにも苦しむ。(中略)動物の苦しみから人間の苦しみへの展開こそ、人間の向上だ。その苦しみに徹し、苦しむことが楽しくなる迄、苦しむことだ。
おそらく、マダムXに見出された「美しい病み姿」の本質にあるのも、こうした意味での苦しみであり、個的生命の死守を超えた、命そのものに対しての養生なのではないでしょうか。その意味で、今週のさそり座もまた、これまでの自分の活動のどこにさらに力を入れ、どこで力を抜いたらいいのか、自然と軌道修正がかかっていきやすいはずです。
さそり座の今週のキーワード
養生=アート=演じること