さそり座
寝返り打ったら別の顔
不思議な思い
今週のさそり座は、『前(さき)の世もその前(さき)の世も海鼠かな』(西嶋あさ子)という句のごとし。あるいは、物語を一層も二層も遡っていこうとするような星回り。
「海鼠(なまこ)」は冬が美味なので冬の季語。しかしどこが頭なのか、尾なのかもよくわからず、ぐんにゃりとした筒のような形をしているそのグロテスクな姿を見ていると、なぜこんな姿に生まれてきたのか、そして何が楽しくて生きているのかと、不思議な思いに駆られていくはず。
作者もまたそんな一人だったのでしょう。市場や店先でふと目に留まった海鼠の、その特殊すぎるDNAを掲句はまるで親子3代にかかった呪いかのように描写してみせます。
確かに口のまわりの触手といい、腹面の足の配列といい、海鼠はその特別に気持ちの悪い見た目のためにその姿を見て驚くだけでなく、ついついそこに物語を読み込み、幾重にも意味を帯びさせ、経験の地平を重層化させていかざるを得ない存在となっています。しかし、そういう意味ではじつは海鼠というのは人間やその歴史ともよく似ているのだとも言えるのではないでしょうか。
その意味で、1月15日にさそり座から数えて「秘密」を意味する12番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、海の底に横たわる謎のごとき自身の歴史や、そのグロテスクな在りようについて自覚を深めていくべし。
記憶が書き換わっていく
「構成的記憶」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。現実に自分の身に起きた事実そのものは変えられなくても、想起される記憶であれば後で幾らでも捏造し、でっち上げることも可能であるということを示す際に使われる心理学の言葉であり、ある意味で今週のさそり座にとっても縁の深い言葉であるはず。
私たちの記憶はあまりにも曖昧で、他人からの操作の影響をもろに受けがちなのですが、そうした記憶の書き換えは、しばしば日常のリズム周期の外に置かれた時にも自然に起きているようです。
つまり、夜更かしや昼夜逆転に限らず、いつもの帰り道から不意に外れた体験や、これまで降りたことのない駅に降りるなど、ちょっとしたもののはずみや不意にできた意識の空隙まで、私たちはそれらを利用することで寝返りでも打つように記憶を書き換えているのかも知れません。
今週のさそり座は、どこかでそうした「書き換え」を確信犯的に犯していこうとするような動きが出てくるはず。どうせなら、海鼠のような訳の分からない自分になるくらいのつもりで寝返りを打っていきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
偶然性に体をひらく