さそり座
心地いいが正義
脳がとけて残るもの
今週のさそり座は、『日向ぼこ脳がとけてゆくごとし』(大木あまり)という句のごとし。あるいは、本音を本音のままに打ち出していこうとするような星回り。
五七五のまん中の「脳がとけて」が六音の「字足らず」になっており、なんとも盛り上がりに欠ける一句。だが、それがいい。日向ぼっこの、じんわりと温かみがつたわって、固く凍りついていた身体がとろけていく感じがよく表されているし、「脳」以降の文字がすべてひらがなになっていて、ゲシュタルト崩壊したときのようになっているのも「脳がとけて」雪崩が起きているようでじつに効果的です。
思うに、現代人というのは「難しいことを簡単に」などと大声でまくして立てている裏で、本来は易しいことを難しくしすぎているのではないでしょうか。それで、眉間にしわを寄せあって、専門用語や抽象的な漢字の羅列を並べ立てないと、いつしか「なにも考えたくない」という本音さえも言えなくなってしまっているのかも知れません。
かつてある詩人が「なにも考えないことのうちには、十分な形而上学がある」と書きましたが、少なくとも現代では「なにも考えない」ことの実践はますます困難なものになっていることは確かでしょう。
11月30日にさそり座から数えて「再誕」を意味する5番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、易しいことを易しいままに体現していきたいところです。
人間を単純にする暮らし方
例えば、スイスの精神医学者のカール・ユングは、都会での忙しい生活のかたわら、休日を利用して執筆にいそしむためにボーリンゲンという小さな村に石造りの簡素な家を建て、そこを隠れ家として使っていました。
そこでユングは朝7時に起き、鍋や釜に向かっておはようとあいさつをしてから、長い時間をかけて朝食とその準備をしてから、執筆や絵画や瞑想や散歩をし、またたっぷり時間をかけて夕食づくりにいそしみ、夕暮れの一杯を楽しんでから10時には就寝しました。
ユングは「ボーリンゲンでは、ほんとうの人生を生きている。とても深いところで自分自身になれるのだ」と書いてその極意を次のように結んでいる。
電気のない生活のなかで、暖炉やコンロの火を絶やさないよう気をつける。日が暮れると古いランプに火を入れる。水道はなく、井戸からポンプで水をくむ。薪を割り、食事を作る。こういった単純な行為が、人間を単純にする。だが、単純であることが、いかに難しいか!
今週のさそり座もまた、いつの間にか複雑になってしまっている自分自身をどれだけ単純にできるか試してみるといいでしょう。
さそり座の今週のキーワード
便利さは生活を複雑にする