さそり座
伝え方の妙
さらりと、あっさり
今週のさそり座は、『さり気なく聞いて身にしむ話かな』(富安風生)という句のごとし。あるいは、上手な伝え手となることでよい話の聞き手となっていくような星回り。
「身にしむ」は、もともと身にしみいるように深く感じることをあらわす語であって、特に秋という季節と結びついた言葉ではありませんでした。それが中世社会を経て、秋風のもののあわれ、寂寥感をあらわすようになった。
掲句の場合も、秋の冷気が身に沁みて受けとるように、決定的な交わりや大事な話をあくまで感情を表さず、さらりと受けるように聞いた。しかし、その話は作者に深い寂しさや悲しさをもたらすものだったのでしょう。
ただ、それをあくまであっさりと仕立てることで、読者それぞれに想像を働かせるだけの余韻をもたせることに成功しているところなどは、なかなか考えさせるものがあるように思います。
すなわち、聞いた話を大げさにならないよう、配慮をもって表し伝えることで、受けとった悲しみが深くなりすぎて毒にならないよう循環させているわけで、ここではよい伝え手となることがよい聞き手や受け手となるための秘訣となっている。
10月3日にさそり座から数えて「学習」を意味する3番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、日ごろのコミュニケーションにおいて、そんなさりげない一工夫を試みてみるといいでしょう。
「伝える」言葉を「伝わる」気持ちが支える
先日亡くなった精神科医の中井久夫は、『「伝える」ことと「伝わる」こと』というエッセイのなかで、癌と知った時から急に癌患者らしくなる人をあまりにたくさん見てきた経験から「病気の告知には「同時に何を伝えるか」「同時に何が伝わるか」が重要な意味を持つ」と述べつつ、ある宗教学者の事例を引いています。
いわく、ある日を境に周囲の人との間に目に見えない「ガラスの壁」ができたので、ははあ、自分は癌なんだなとわかったのだそうです。周囲が急にやさしくなり、意味のない美しい言葉を語りかけてくるようになったと。これが、癌患者に対して「伝えまい」とする周囲の努力の結果、コミュニケーションを絶たれたことが自然に「伝わる」ケースの典型なのだそう。
逆に、きびきびと働いている看護師の姿は、他の患者に生きる希望を自然に「伝える」のだそうで、患者はいざという時には自分もああしてもらえるのだと安心感を持つのだと。
今週のさそり座もまた、ただ自然に「伝わる」に任せるのでなく、中井の言葉のように何を「伝える」にせよ、きちんと「伝わる」気持ちに責任を持っていきたいところです。
さそり座の今週のキーワード
誠実であるとは真なることが「伝わる」ように言葉を「伝える」心がけを忘れないということ