さそり座
宙をみつめる
パロディの実践
今週のさそり座は、『芭蕉野分して盥に雨を聞く夜哉』(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、もう1つの現実を今ここに重ねていこうとするような星回り。
前年の冬に当時の大都会・日本橋から、隅田川の向こう岸である深川の庵に隠棲して初めての秋に詠まれた一句。季語は「野分(のわけ)」で秋、どうも台風が来たらしい。いわゆるあばら家ですから、なかなかの非常事態だったはず。外では庭に植えられた「芭蕉」の、バナナに似た大きな葉がバタバタとはためき、家の中では天井から盥(たらい)に落ちる雨漏りの音を聞きつつ、ひたすらじーっと耐えながら夜を過ごしている。
その心中の尋常でなさ、事態のものものしさは、通常は五・七・五で作られるところを、最初の「芭蕉野分して(八音)」で異例とも言える三音もの字余りになっていることからもうかがい知れます。
とはいえ、作者の心の奥深くにあったのは心細さやみじめさではなく、むしろ憧れの漢詩人たちと同じ侘しい境遇にどっぷりと浸ることのできたよろこびであり、この隠棲そのものが漢詩の世界のパロディという高度かつ真剣な遊びだったのだと言えます。
同様に、9月23日にさそり座から数えて「VR」を意味する12番目のてんびん座に太陽が入座する(秋分)今週のあなたもまた、これはという仮想世界に思いきり浸っていくつもりで過ごしてみるといいでしょう。
手元を風が吹き抜けていく
今週のさそり座のテーマは、ある意味で「パラノ(固執)」から「スキゾ(逃走)」へという風にも言い換えることができるかも知れません。
つまり、過去や人から受けた恩や傷へのこだわりや、是が非でも挽回しようという態度から、それらをさっと水に流す行為へとシフトしていく。特に気合いで何とかするとか、頑張ればぜったいに結果につながる、なんて昭和的精神論はここで手放すこと。
あるいはもし、これまであなたが抱えてきた立場や利益をもったいなく感じていて、現状のパターンややり方に安住しようとしているなら、そのパターンによって得られる安定安全の虚構性をいま一度疑ってみる必要がありそうです。というのも、脳というのは余裕がなくなるほどに絶えず誤作動を起こしていくものだから。
今週のさそり座は、手元をいそがしく動かしていくというより、そこを時おり吹き抜けていく風の感触や、そこで感じた気持ちの流れにこそ留意し、精神をとぎすませていくといいでしょう。
さそり座の今週のキーワード
いっそひらりと宙がえり