さそり座
天使的憂鬱のほうへ
チャランポランでよし
今週のさそり座は、「わかりました。これから挫折してきます」というセリフのごとし。あるいは、目の前の状況にすこし醒めて、客観的になっていくような星回り。
世間では「挫折を経験してこそ本物になれる」とか、何かと大切そうに自身の挫折体験を自慢する大人であふれている訳ですが、挫折なんてしようと思ってもできるもんでもありませんし、そうして生乾きの自意識をアイデンティティにしてしまうと、「年相応になれ」とか「そろそろ落ち着いたら」なんてしきりに言いだして、なんだか人間としてしみったれきてしまうように思います。
逆に個人的な好きな話で思い出すのは、当時学生だった吉本隆明が日本の敗戦でなんだか妙にショックを受けて、しばらく大きな挫折感を抱えていたそうなんですが、あるとき、そんな気分のまま、疎開先の港のなかで海にぷかぷか浮いていたんだとか。
そうしていると、遠くから漁船がきて、こっちが溺れているんじゃないかと思って「大丈夫かー」と大声で声をかけてきた。それで仕方なく、大丈夫だと示すために手を振った。そうしたら、なぜかそれで一皮むけたというか、少し客観的になって、翌日にはもっと客観的になって、勝手に疎開をやめて帰っちゃった。要は、こんな程度で死ぬのはごめんだなって、自然と思えたというか、状況に飽きたということでしょう。
その意味で、6月7日夜にさそり座から数えて「デタッチメント」を意味する11番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、これまで無駄に近くに感じていたものがボーっと遠のいていくような、そんなきっかけを得ていきやすいでしょう。
途方に暮れる天使
いまからおよそ500年前に制作されたデューラーの版画『メランコリアⅠ』には、海のそばの建築中の空間に腰をかけた有翼の天使的な女性が描かれており、その顔は濃い陰影で覆われ、衣服にはしわが寄り、お世辞にもおしゃれとも優雅ともとても言えない雰囲気が醸し出されています。
さらに、彼女の傍らにはやせ細った犬が1匹、石板に何かを刻んでいる子どもがひとり、そしてこの三者の周りには挽き臼、はしご、天秤、砂時計、かんな、球体、魔法陣などが雑然の散らばっており、美術史家のパノフスキーはイコノロジーの見地から、人間の知恵とテクノロジーの象徴と深く関わると見なし、有翼の天使的な女性はそれらが陥っている深いメランコリーの象徴的存在なのだと考えました。
そしてこれはおそらく、21世紀の人類が高度な知の道具を用いていくら認識を深めても、この地球がその把握を超えた「解決できない問題」をつぎつぎと差し出してくるという状況を描いた1種のカリカチュアとも解釈できるのではないでしょうか。
同様に、今週のさそり座もまた、日々の仕事や人間関係に追われる人間的憂鬱というより、できうる限り冷静に知性を働かせることでかえって途方に暮れてしまうような、天使的憂鬱に駆られていきやすい時期なのだと言えます。
さそり座の今週のキーワード
海にぷかぷか浮いてみる