さそり座
仔猫と葦笛
燃えさかる蒸気機関
今週のさそり座は、「麦飯の麦こぼしゐる仔猫かな」(後藤夜半)という句のごとし。あるいは、からだの声に自然と従っていくような星回り。
今では珍しいものになりましたが、ひと昔前までは麦ごはんをよく食べたのだと言います。むろん、人に飼われる犬や猫にしても事情は同じで、掲句は皿に盛られた麦のご飯を食べこぼしている仔猫の様子を描いたもの。
乳離れはしても、まだこの世の食べ物に慣れていないのでしょう。けれど、勢いはすごい。まるで動き始めた蒸気機関車が、つぎつぎと石炭を飲み込んではそれを燃やしていくように、仔猫はその旺盛な食欲によって自身の命をこの世に繋ぎとめようとしているのかも知れません。
ネット上でも至極ほほえましいものとしてよく仔猫の画像や動画はあげられますが、彼らは必要としているものをはっきりと認識し、全身でそれを欲しているという点で、自分が何を必要としているのかも分からなくなってしまった人間よりも生きものとして輝いているのだと言えるのではないでしょうか。
人間であれ猫であれ、そうして真に必要なものをいただいて命そのものを燃焼させる時にはじめて、本当の意味で人生は始まっていくように思います。
3月6日にさそり座から数えて「身体の必要」を意味する2番目のいて座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ひとつそんな仔猫になったつもりで過ごしてみるといいでしょう。
からっぽの器
インドの誇る大詩人、タゴールの詩集『ギーターンジャリ(「歌の捧げもの」の意)』には、次のような一節があります。
あなたは私を限りないものにした。それがあなたの楽しみなのだ。この脆い器を、あなたは何度もからにして、またたえず新鮮な生命を注ぎ込んだ。この小さな葦笛を、あなたは山や谷に持ち回り、永遠に新しいメロディーを吹いた。あなたの手の不死の感触に、私の小さな心臓は喜びのあまりに限度を失い、言いようのない言葉を叫ぶ
タゴールが肉体を持って日常を生きる、ひとりの平凡な人間であると同時に、偉大な詩人となりえた秘密は、ひとえに「からっぽの器」としてのセルフイメージを失うことなく、徹底的に持ち続けることができた点にあるように思います。
そして今週のさそり座も、暮らしのリズムを整えていくなかで、そうした感覚を掴んでいくことが出来るかも知れません。
今週のキーワード
天の恵みを受け取っていく