さそり座
こころの割り算
割り切れるものはそぎ落す
今週のさそり座は、「野ざらしを心に風のしむ身哉」(松尾芭蕉)という句のごとし。すなわち、新しいことをするにあたっての気負いをふるい落としていくような星回り。
「野ざらし」とはしゃれこうべ、つまり風雨に曝された頭蓋骨のこと。どこかに行き倒れて野ざらしになるかもしれない、そう思うと我が身に風が冷え冷えと沁みるようだと、旅立ちにあたって悲壮な決意を示す句。
しかし、いくら何でもちょっと大げさ過ぎるのではないか。江戸時代は治安も安定し、東海道であれば命懸けという心配も少なかったはず。芭蕉としては、それほどの覚悟をもって旅のなかで自身の芸術観や境地を深めていこうとしていたのでしょうけれど、掲句を自然な感情の発露と見なすには、少々気負い過ぎなように思えます。
おそらく、掲句は芭蕉なりのおどけであり、ユーモアなのでしょう。あるいは、旅をそれほどに命懸けのものであったことを忘れないようにしたのも、芭蕉が理想とした中世の隠遁者たちの一種のコスプレだったのかも知れません。
この旅の一番の目的は、久しぶりに故郷の伊賀上野に帰ることでした。江戸に出て10数年、芭蕉は前年に亡くなった母の死に目にも会えなかったことを考えると、こうした芭蕉の取ってみせたポーズは42歳なりの照れ隠しだったようにも思えてきます。
8日にさそり座から数えて「自由と勢い」を意味する11番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分のなかの心残りや叶えたい願いを、できるだけ力を抜いて思い浮かべてみるといいでしょう。
割りきれないものを明確にする
考えてみれば、分数というのは不思議なもので、例えば「1/3」という数など、割り切れないものをも表現する奇妙な性質を持ち、分数でしか正確には表現できません。それ以外は、どんなに小数点以下を並べても、すべて近似値になり、これは円周率をπ(パイ)でしか表現できないことにも似ていますが、それとも微妙かつ決定的に異なっています。
どういうことか。例えば、中学校の校門で次に出てくる生徒が男子か女子のどちらか当てる状況にある時、仮にその中学校の男女比率が7:3ならば、次に出てくるのは男子が70%で、女子が30%の確率となる訳ですが、この確率を端的なビジュアルで認識しようとすると、さながら「あしゅら男爵」のような顔が左右でまったく異なる気味の悪い姿になってしまいます。
つまりここでは、現実の世界と確率とのあいだのズレが端的に示されており、現実に無理やり線を引いて割りきろうとすると、なんだかおかしなことになってくるということ。
「7/10」も「3/10」も割り切ることはできませんし、「3/7」という象徴的な分数もまた同様です。ただ、そこではただ単に差異が強調されているのではなく、現実の中に秘められ表面に現れない含意が担保されていて、そこが分数の不思議な魅力なのだと思います。
今週のあなたもまた、そんな分数における分母のように、割り切れない分子をそのままに胸に抱いていきましょう。
今週のキーワード
割りきれない思いこそ大切に