さそり座
ヒルコと猛獣の話
ヒルコの帰還
今週のさそり座は、日本神話の神ヒルコのごとし。あるいは、これまで使ってこなかった力や封印してきたエネルギーをいかに取り戻すことができるかが問われ始めていくような星回り。
『古事記』には、国土だけでなく森羅万象の神を生んだイザナキとイザナミが婚姻の儀式の際、「(妻である)イザナミの方から先に声をかけたのは不吉である」として、二人はまっすぐに立てない不具の子どもをもうけることになり、ヒルコと名付けられ葦の箱に入れられて流されたという有名なエピソードがあります。
ヒルコという名は「昼の子」とも「蛭の子」ともとれますが、前者だとすれば日本神話は男性の太陽神を捨てて、女性の太陽神を称揚し、月の神(ツクヨミ)と嵐の神(スサノオ)をその左右に配置した訳です。
なぜヒルコは捨てられねばならなかったのか。ある学者はヒルコは邪悪な霊に違いないと言い、また別の学者はヒルコは日本全体に新しい方向付けをもたらすかもしれない偉大な神々であると言う。おそらく、そのどちらもヒルコの側面を表していて、最強の者として中心に立ち、絶妙なバランスを保つためのいかなる策略もはねつける男性の太陽神を日本人はずっと扱いかねてきたのではないでしょうか。
その意味で、日本神話というのは初めから、ヒルコの帰ってくる居場所をどのようにして見つけていくかという構造上のジレンマを抱えていたのだと言えます。
30日にさそり座から数えて「死と再生」を意味する8番目のふたご座で月蝕の満月を迎えていく今週のあなたにおいても、特に女性においては、強い男性性をいかに取り戻していけるかが大きなテーマとなっていくでしょう。
猛獣となった老人
神話の根本も、元をたどれば人類の祖先たちの間で起こった命と命のやりとりにあるのかも知れません。その際、現代において命のなんたるか知る人と言われて思い出すのは、かつて“猛獣使い”として名を馳せた獣医のムツゴロウさんでしょう。ただ、ここで大切になってくるのは、何を隠そう彼自身がいちばんの猛獣なのだということです。
オスのオオオミに「愛してる」のサインを送って三日三晩愛し合ったとか、クマと一つ屋根の下で生活をしていた頃に求愛され、そのあまりの愛くるしさに当時結婚していた妻と本気で離婚を考えたとか。
なんというか、表面的な生き物好きの人に見られる精神の虚弱さや脅えのようなものが一切感じられないところが、彼が猛獣(=原始的な自然の猛威の象徴)たる由縁なのかも知れません。そしてそれこそが、男性の太陽神たるヒルコの本質なのではないでしょうか。
今週のさそり座も、そんなムツゴロウさんを見習ってみるのも悪くないかも知れません。
今週のキーワード
異類婚姻譚