さそり座
不穏さを見抜いていく
日常世界が一番怖い
今週のさそり座は、恩田陸の短編集『光の帝国』のごとし。あるいは、そもそも世界は怖いところだったのだと思い出していくような星回り。
「常野(とこの)」と呼ばれる土地からやってきた、不思議な力を持った一族の物語。ただ不思議な力といっても、マーベルヒーローのような大袈裟な特殊能力ではなくて、もっとささやかなもの。例えば、書物をさっと暗記できる能力だとか、遠くで起こったことが分かる力、ほんの少し先に起こることが前もって分かる力などで、彼らはその力で戦ったり支配しようとすることもなく、いたって静謐に、何でもないような顔をして市井にまぎれて生きようとしている。
ただ、彼らは自分たちがまぎれようとしている日常が、じつはかなり奇妙で、そこはかとない恐怖に満ちているということに気付いてもいる。
私は目を凝らして次々と出て来る人間たちを見つめた。あの色彩を探すのは困難ではなかった。サングラスの下から蔓がのぞいている男。ワイシャツのカラーからシダが飛び出している男。背中に草がはえている女。ぽつりぽつりとではあったものの、今見ている短い時間の間にこれだけ見つかるということは、全体ではかなりの人数になることは間違いない。(中略)「そうなんだよ。今までは、街の中に生えているだけだった。ところが、最近は人間に草が生えるようになったんだね。彼等はそのことに気がついていないだろうけどね。でも、そのうちにあの草は彼らの内臓も精神も破壊してしまうだろう」
10日にさそり座から数えて「必要な警戒心」を意味する6番目のおひつじ座で火星が逆行に転じていく今週のあなたもまた、気ままな空想とも強迫的な被害妄想とも違った類いの、日常世界と向きあっていくのに妥当な注意深さを改めて宿していくことがテーマとなっていくでしょう。
魔法の杖になる
別の言い方をするならば、今のさそり座は普段ならあまりまとうことのないような、スキャンダラスな空気をキャッチしていきやすいのだとも言えるでしょう。
日頃行き来している日常空間から不意に道を逸れ、見慣れない路地裏や非日常への扉の先へ、思わず歩を進めてしまうこともあるかも知れません。
同時に、あなた自身も箸が転んでもおかしかった思春期の頃に戻ったように、いつもの帰り道がどこへ通じ、両足はどこへ向かうのか、自分でもコントロールできないような状況を、どこか楽しんでいるところがあるでしょう。
夜道でふいに三叉路に出会った時の、不安と期待が入り混じったような、なんとも言えない気持ち。まだ名前のついていない感情。そうしたものを糧に、今週はみずから「魔法の杖」となって、胸の内に秘めてきた本音や真実を告げていきましょう。
今週のキーワード
逢魔が時には風が吹く