さそり座
自分の割りきれなさを遊ぶ
頭の中をひらがなに
今週のさそり座は、「あきかぜやなんにもなくてあたりまへ」(星野麥丘人)という句のごとし。あるいは、机からスーっと足を伸ばしていくような星回り。
俳句というのは、あんまり一句の中ですべてを言い表そうとし過ぎてしまうとダメで、隠れている部分にこそ味が出てくる文芸であるように思います。
掲句もまさにそんな一句。「あきかぜ」が吹き始めると、空気がスッと変わって、まるでこれまでいた世界とは別の世界に来てしまったような、そこはかとない寂しさを覚えるものですが、それをあえて平仮名で崩して<なんにもなくて><あたりまへ>と続けてみせる自由自在。
俳句にすこし慣れてくると、期日前に歳時記を取り出して、うんうんと机上で頭をひねってなんとかそれらしい句を作り出す、なんて事態に陥りがちになるものですが、ここには飄々とした作者の俳句観がちらりとうかがえるのではないでしょうか。
新しい発見というのは、机から一歩足を伸ばした先に、案外転がっていたりするんだよ。でもそれだって、見つけようと思って探せば、「なんにもなくてあたりまへ」。そう言っているようでもあります。
9月2日にさそり座から数えて「自己解放」を意味する5番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、あまり小難しいことは考えず、使う言葉をすべて平仮名にしてしまうくらいの感覚でちょうどいいでしょう。
過剰なる余剰
自然に存在するものを人が忠実に表現しようとするとき、そこには必ず過剰なまでの余剰部分が生じます。
例えば、「丸い」ということを表すためには、円周率の小数点以下に永遠に割り切れないまま数を羅列させ続けねばなりません(有理数ではなく無理数になる)。
それは人間の中に巣食う自己中心的で破壊的な、無明へと閉じていこうとする流れへの抵抗であり、そうした抵抗によってなんとか確保された余剰部分こそが、進化や創造をもたらしていく訳です。これがもし円周率を“3”で表現してしまったら、世界はその美しさを半減させ、人々の想像力は急速に退化するでしょう。
自らをまだまだ予測不可能で、創造の過程にあるものにしていきたいなら、円周率が割り切れない数字を打ち続けるように、過剰なまでに余剰部分を作り込むこと。今週さそり座に何か伝えることがあるとするなら、ただただその一点に尽きるでしょう。
今週のキーワード
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