さそり座
死ぬまでの道しるべ
未練を絶つべし
今週のさそり座は、「水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る」(金子兜太)という句のごとし。あるいは、後ろ髪を引かれつつも未来に向き直っていくような星回り。
作者は太平洋戦争末期の1944年にサイパンを経て遥か南洋のトラック島に出征します。島は米軍によるひっきりなしの空爆や機銃掃射によって荒れ果て、深刻な食糧難で飢え死にする者が後を絶たなかったのだそう。そんな極限状態をなんとか生き延び、1年3カ月にも及んだ捕虜生活を送った後に、ついに日本への最後の引き揚げ船に乗って帰るその船上で作られたのが掲句でした。
回想の中で、作者は島を後にする時、爆撃によって赤はげになった山がいつまでもいつまでも見えており、やがて山そのものが非業の死を遂げていった死者たちの墓標に見えたのだと述懐しています。
冒頭の「水脈」とは、そんな作者の後ろ髪を引かれる思いを映し出すかのような真っ白く伸びる船跡(ふなあと)であり、それは作者が背負った死者たちとの繋がりでもあったのかも知れません。
ただ、この句のいのちは「置きて去る」という悲しい決意にこそあります。すでに亡くなった死者たちを直接救うことはできない代わりに、今後同じような犠牲者は出すまいという意志をきつく固めているのです。
19日にさそり座から数えて「やらねばならぬこと」を意味する10番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の人生に未練を残さないためには死ぬまでに何をしておくべきか、改めて意志に問いかけてみるといいでしょう。
リストの更新
人間はどうしたって過つものだし、どうしたって未練を持ってしまう。ただそうした過ちや未練にいつまでも囚われ、自分を嫌い続けることもまた難しいはず。
どうしたって自分のことを嫌いになれないからこそ、人は自分と仲直りするために生き続け、そうして人生という旅の果てまで行って、やっと自分を受け入れられるようになっていくのかも知れません。そういう旅には必ずしも目的地は必要ありませんが、逆に道しるべとなるものはその都度必要になってくるでしょう。
例えば、「死ぬまでにやりたいことのリスト」というのも、結局ひとつひとつの内容だったり、どれだけ達成できたかが重要なのではなくて、中継地点を結んでいくうちに自分自身との仲直りのイメージが浮かんでくることが大切なのではないでしょうか。
今週はそうしたイメージととともに、>改めて死ぬまでにやりたいことのリストのアップデートを試みてみていきたいところです。
今週のキーワード
自分との仲直り期間としての余生