いて座
裸で未来にぶつかる
家出と放浪の心理
今週のいて座は、蒸発した作家・檀一雄のごとし。既に作家としての地位を確立し、家族に囲まれ団欒していた晩年のある日、檀はふらっと姿を消し、そのままポルトガルの鄙びた漁師町サンタ・クルスに1年3ヵ月滞在しながら代表作となる『火宅の人』を執筆しました。
今週いて座で迎える新月とともに、あなたの中に、もう古い自分はこれっきりにして、体ひとつで自分の未来にぶつかっていこうという気持ちが浮かんでくるかも知れません。それが、誰も本当の自分を理解してくれていないという感傷の裏返しなのか、真の安息を得るための霊的アイデンティティーをめぐる私的な奮闘なのかは人によって分かられるでしょう。
けれど、人にはふとこれまで付けてきた仮面とは劇的に異なる仮面を手に取りたくなる時があり、いて座には特にそういうタイミングが定期的に必要なのです。
檀一雄の背中
もともと檀は家出をしては世界中を放浪し、その土地の食べ物を食し、飲み歩くことを好み、旅先で覚えた料理を家族に振る舞うのを土産にしていました。
当然サンタ・クルスでもよく手料理を振る舞い、現地の人ともずいぶん濃密な親交を結んだそうですが、「落日を拾ひに行かむ海の果て」という当時檀が詠んだ俳句など読むと、そこにはやはり深い内省の気配が感じ取れます。大西洋に臨み、異国のアミーゴ(友)の生活に触れながら、おそらく彼は自らの内なる心象風景を眺めていたのでしょう。
今週は少なくともどこかで一度は、そうして無意識の海を漂う小舟のように翻弄され、途方に暮れる自分の姿を丹念に追っていく時間を作ってみてください。
今週のキーワード
ある日家族を置いてサンタ・クルスに住み着いた檀一雄、異なる仮面を手に取る、内なる心象風景を見つめ変化を促す、家出・放浪・蒸発