いて座
夢から醒めた時のように
彼岸花のような記憶
今週のいて座は、「ゆらゆらと回想のぼるまんじゅしゃげ」(榊原風伯)という句のごとし。あるいは、これまで無意識の内に避けてきたものを、視界の中心に立ち上がらせていくような星回り。
作者は風に吹かれる曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花を、水槽の魚でも見るように、眺めるともなく眺めていたのだろう。そして「ゆらゆら」と揺れる花そのものに自分が変身したかのように、次々と「回想」がのぼってくる。
曼珠沙華の別名は「彼岸花」。猛毒成分を含む彼岸花が墓地に多いのは、土葬の時代の死体荒らし対策として、殺鼠剤代わりに使われていたからだという。恐らく、作者が立っていたのは墓地だろう。死んでいった近しい人をめぐっての「回想」なのだ。
もう相手がこの世から消えてしまうという土壇場を迎え、切羽詰まってみなければ出てこない思い出というものもある。その意味で、思い出というのは、その人の分身に他ならない。
今週のあなたのテーマは、思い出を拾い集めていくなかで、真っ赤な彼岸花のような、鮮烈な記憶へとたどり着いていくことと言えるでしょう。
仮面を見透かす
橋龍吾という詩人が「天職」という短い詩を書いているのですが、「分身を拾い集める」とうのはちょうどこんな感覚なのでしょうね。
「天職
あの三流の付き人は、
一流の役者の巧妙な芝居かもしれない。」ある意味で、今週は夢の中で夢を見ていることに気付いた明晰夢に近い状態とも言えるかも知れません。つまり心のどこかで引っかかったまま解消されていない矛盾や違和感をはっきりと自覚するためのプロセスという訳です。
「仮面しか見ることのない人間に災いあれ。背後に隠れているものだけをみる人間に災いあれ。真のビジョンをもつ人間だけが、たった一瞬の間に美しい仮面とその背後の恐ろしい顔を同時に見る。その額の背後にこの仮面と顔を、自然にはいまだ知られぬかたちで統合するものは幸いである。そんな人間だけが生と死の二重の笛を威厳をもって吹くことができるのである。」(『石の庭』ニコス・カザンツァキ)
今週のキーワード
明晰夢