いて座
偉大な跳躍を夢見て
柵を越えてゆけ
今週のいて座は、『永き日のにはとり柵を越えにけり』(芝不器男)という句のごとし。あるいは、社会や人間のつまらない狭隘さを精神の力で克服せんとしていくような星回り。
「永き日」とは、春になって日脚が伸びること。どこか物憂い春の光のもと、庭から畑へ、にわとりがやすやすと柵を越えて走り出ていく、まさにその瞬間を活写した一句。
こうしてごく平凡な農村の日常が、平穏のうちに始まっていく―。とはいえ、こんな何でもないような日常描写に一体何の意味があるのか、と読者は問いたくなるかもしれません。
しかし一方で、読者はすでに掲句に“単なる日常描写”とは異なるなにかを感じているはず。それは外界の風物を捉えた作者の内面に、まるであの世からこの世を見つめる夜空の星のような静謐さが、音を立てず、しかし力強く広がっているからでしょう。
作者は句歴4年、わずか26歳で夭逝してしまった人ですが、どこかでみずからの短命さをわかっていたのでしょう。そうであるがゆえに、ごく普通のなんでもない光景を捉えた句が、同時に絶対的な懐かしさを思い起させる「瞬間の中の永遠」たり得ているのだと思います。
3月4日に自分自身の星座であるいて座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、作者のようにみずからを有限性やせせこましさに閉じ込めんとする「柵」をのびやかに越えていくべし。
偉大なる夢想者
かつてアメリカを代表する作家マーク・トウェインは「あなたの大きな夢を萎えさせるような人間には近づくな。たいしたことない人間ほど人の夢にケチをつけたがるものだ。」と述べました。しかし、今の日本社会はどこもかしこも人にケチをつけて回る人間(すなわち「柵」)ばかりではないでしょうか。
ただし、歴史を振り返れば、そこには時にどんなケチも近づけさせない「大きな夢」を作り出してしまった巨人たちの姿を、私たちは目の当たりにすることができます。例えば、その内の一人にはヨハネス・ケプラーの名が挙げられるでしょう。
科学革命期のドイツの偉大な天文学者であり、惑星運動の三法則の発見者である彼の名を知らない人は現代においてほとんどいませんが、そもそも彼の性格は今日の人が想像するような厳格な合理主義者というよりも、ピタゴラスの天界音楽調和説やプラトンの正多面体のイデアを追慕し、それらに基づいて宇宙を説明しきってやろうなどと大それた望みを抱いた夢想者のそれでした。
今週のいて座もまた、人生で陥りがちな「平凡な当然さ」を打ち破っていくことを念頭に、自分の夢の栄養となるものであれば、どんどん取り入れていきたいところです。
いて座の今週のキーワード
胎児の頃に見ていた夢を思い出していく