いて座
別の何かに開かれていく
未完成な自分に戻す
今週のいて座は、『蠛蠓(まくなぎ)の阿鼻叫喚をふりかぶる』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、自分の不完全さに対してメタ認知をかましていこうとするような星回り。
「蠛蠓(まくなぎ)」は、夕暮れどきなどに川のそばや林道などを通るときに、群れをなして顔などにまとわりついてくる小さな羽虫のこと。
じっと見てみると、地上からしばし離れたあたりで虫どもは猛烈に上下を繰り返しており、まったく何もかも狂ってしまっている現代社会の縮図のようでもあります。思わず、無視を決め込んで、何もなかったかのように素通りしたくなるところですが、それにしたって彼らが生命を持っていることも疑いえない事実です。
作者は自句自解の中で「生命を持つものの大叫喚が聞こえないのは人間の耳が不完全だからだ」と書いていましたが、確かに私たちはしばしば自分が不完全な存在であることをすっかり忘れてしまうがゆえに、相手の気持ちや存在自体をないがしろにするようなことを平気で言ったり、ろくに裏も取っていないようなデマや妄想をもっともらしい顔をしてSNSで垂れ流したりできる訳です。
その意味で、ものすごい形相とともに「阿鼻叫喚をふりかぶ」ったのであろう作者は、そうした咄嗟にとった動作を通して、逆説的に自分がまだ狂いきっていないことに気が付いたのでしょう。なんだ、自分だってこのちっぽけな羽虫のようなものじゃないかと。
8日にいて座から数えて「自戒」を意味する6番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、それくらいの勢いで自分にツッコミを入れてみるといいでしょう。
「際(きわ)」という言葉
辞書をひくと、「際」とは「もう少しで別の物になる、その物のすぐそば。すれすれのところ」を意味する言葉と出てきます。
それは中心から完全な外部へと出ていく手前の周縁であり、ビルや建物が隙間なく並ぶ都心から空き地や畑などが目立つ郊外へと景色が変わっていく境い目。そしてこちらとむこうとを繋ぐ媒介部分であり、出会いと別れの震源地として、あるいはそこに漂う神秘的な予感によって、つねに人々を惹きつけては物語を生み出す領域として機能してきました。
例えば、東京の「際」というと大田区蒲田、北区赤羽、川崎、町田、立川など、いずれも表参道や丸ノ内などのきらびやかな繁華街とは趣きを異にしつつも、中心ではむしろ居心地の悪さを感じるような多くの人が飲み歩き、時に失敗と後悔を織り交ぜながら、特有の香ばしさと怪しさとを醸し出している一帯である点では共通しているはず。
それはおそらく、「際」と呼ばれる一帯が、現在自分がこの世界や周囲と結んでいる委縮してしまった関係性を開いて、偶然性に満ち満ちた異なる関係性を呼び込む形で機能することで、時に未来を取り戻したり、はたまたますます過去に囚われたりしつつも、そこを訪れる人々のリアルを変え続けているからなのでしょう。
今週のいて座もまた、できるだけそうした「際」として機能している一帯に足を運んでみるといいかも知れません。
いて座の今週のキーワード
おのれが再編成される地点まで身を運んでみること