いて座
こみあげるイマージュ
ある都会の百鬼夜行
今週のいて座は、「風立ちて月光の坂ひらひらす」(大野林火)という句のごとし。あるいは、境界線の上で感覚と研ぎ澄ませていくような星回り。
新居へ引っ越した際に詠まれた一句。ある月夜の晩、不意に坂に風が立った。すると、坂が、白く細長い薄布のようにひらひらとはためくように感じたのだという。
月の光というのは、ときにこうした感覚の冴えをもたらしますが、「坂」というロケーションがまた心憎い。
坂とはさかい=境であり、あちらとこちらを分割する仕切り線であると同時に、時に生者の世界と死者の世界をへだてる境界でもあり、そのたもとは、かつては妖怪や怨霊たちが跳梁すると信じられていた魔性の空間でもありました。
掲句を一読して、どこか艶があってエロチックなのは、月の光とともにひたすらのっぺりと明るい均質感に浸されるようになった近代世界が、にわかにその本来の魔性やカオスや闇を取り戻したからかも知れません。
22日夜にいて座から数えて「生き返り」を意味する3番目のみずがめ座で迎える満月から始まっていく今週のあなたもまた、さながら魔性のものとなったつもりで都市の境い目をふらついてみるといいでしょう。
ビジョンの発生
以前どこかで、LSDを服用した後、まぶたの裏に一輪の蓮華の花が花開いていくのを視たという体験談を読んだことがありました。
花芯からつぎつぎと花びらが湧き出し、それが外へ外へとかぎりなくひらいていく。それはひとつの運動であり、秩序であり、同時に完全と無限との相容れがたい二つの相を備えていた、と。
固くつぼんだ状態からじょじょに開花していくその姿は、収縮した心臓が膨張するようでもあり、宇宙が幾つものカルパ(サンスクリット語で「宇宙の始まりから終わりまでの時間」の意)を経て点から極大へと向かうようでもあり、どことなくバラモン教の奥義書であるウパニシャッドの「ブラフマン(宇宙我)の都城(身体)の中の白蓮華の家(心臓)」を思い起こさせます。
きっと忘れ去られていた才能や記憶が不意に目覚めたり、誰かとの関係性がグッと近くなったりする時にも、どこかで目に見えない蓮華が咲いているのではないでしょうか。
その意味で今週のいて座の人においても、そんな幻視とも言い切れず、現実にもなりきっていない一つのビジョンがそっと花開いていくことがあるかも知れません。
いて座の今週のキーワード
それがぼくらの魂の色だ