いて座
新呼吸
青山つねに運歩す
今週のいて座は、「春尽きて山みな甲斐に走りけり」(前田普羅)という句のごとし。あるいは、一服の清涼剤が心中に広がっていくような星回り。
大正時代に詠まれた句。作者は登山好きで、山を題材とした多くの句を残していますが、これらくらい気持ちのよい句はそうそうないのではないでしょうか。
春を惜しむという、甘やかに流れやすい感傷を越えて、初夏へと向かう季節の勢いにそのまま乗って走り抜けていくような雄渾な風を感じさせます。
個人的にも記憶があるのですが、この季節に北アルプスの山々を縦走していると、確かに青葉若葉を引き連れて、動かぬはずの山が一心に走っていくように見えるものです。ああ、その颯爽とした疾走感。
この場合、自然とともに歩むことで癒されるというより、どこか自然の後を追って思わず小走りになりながら心躍っているうちに、いつの間にか気持ちが晴れて世間のしがらみがほどけている、と言った方が近いように思います。
20日にいて座から数えて「探究」を意味する9番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分なりの足どりで心健やかでいられる方へと歩みを重ねていくべし。
息の行き先
いわゆる大往生と言うのは、深く息を吐き切った後に亡くなっていくことが多いそうですが、「息を引き取る」というのは、「潮が引く」のと同じで、「元に戻っていく力が働いている」のだと言えます。つまり、“もと”の何かに引かれている、あるいは、引っ張っている何かがそこに現れている、ということなのではないかと。
では、この“もと”とは一体なにか?(かみさま、自然、宇宙など)つまり、息を引かれていくということは宇宙に帰るとか、自然に帰るとか、そういうことなんですね。
何もないガランとした空間がどこまでも広がっている訳ではなく、そこには自分を引き取り、受け止めてくれる何かが確かにあるのだということ。
あるいは、息を安らかに吐いていくことのできる先というのは、引かれているこちら側と何の抵抗もなくスムーズにつながっている大いなるものの懐の中でもある訳です。
今週のいて座は、そうした自分をスムーズに引いてくれる大きな呼吸の中で、息を深く吐けるよう調整していくことをどうか意識してみてください。
今週のキーワード
「真人はかかとを以て息をし、衆人(しゅうじん)はのどを以て息をする」(荘子)