いて座
火鉢と雪解
※当初の内容に誤りがありましたので、修正を行いました。ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。(2021年1月25日追記)
朴魯植という俳人について
今週のいて座は、「一笑してことは済みたる火鉢かな」(朴魯植)という句のごとし。あるいは、静かに雪を溶かしていく「火鉢」のようになっていかんとする星回り。
作者は朝鮮半島の人としては最初の俳人とうたわれ、昭和8年に37歳で肺結核で病没した人。朝鮮半島における俳句活動が本格化するのは、日韓併合条約が締結された1910年以降ですが、力によって屈服させられていた時代に、日本人から俳句を教わり日本語で句を詠んでいた作者は、現地の日本人から受ける差別だけでなく、さぞかし力を込めて同胞から「親日」と呼ばれていたことでしょう。
しかし「反日」にしろ「親日」にしろ、所詮それは世界が近代化へ向かった歴史の過程で強国による力の犠牲になった自分たちへのやるせなさへの裏返しであり、「一笑してことは済みたる」と詠んだ作者はそのことを身に沁みて分かっていたのではないでしょうか。
作者は来日経験が一度もないまま、俳句活動に専心した12年間で約1万あまりの句を詠み、「朝鮮の子規」と称されたほどの実力者となっていき、所属した『ホトトギス』の主催者・高浜虚子に「此の土地に此の人により雪解かな」という句を贈られるほど強い印象を残していきました。
29日にいて座から数えて「突出」を意味する9番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、偉大な先人としての朴魯植を念頭に置きつつ、簡単ではない方法によって容易くはない試みに邁進していくべし。
心中で何かが爆ぜる
ここで思い出されるのは、松尾芭蕉や与謝蕪村と並び、江戸時代の三大俳人として知られる小林一茶。彼について描いた藤沢周平さんの『一茶』には次のような描写が出てきます。
言いたいことが、胸の中にふくらんできて堪えられなくなったと感じたのが、二、三年前だった。江戸の隅に、日日の糧に困らないほどの暮らしを立てたいという小さなのぞみのために、一茶は長い間、言いたいこともじっと胸にしまい、まわりに気を遣い、頭をさげて過ごしてきたのだ。その辛抱が、胸の中にしまっておけないほどにたまっていた。
だが、もういいだろうと一茶は不意に思ったのだ。四十を過ぎたときである。のぞみが近づいてきたわけではなかった。若いころ、少し辛抱すればじきに手に入りそうに思えたそれは、むしろかたくなに遠ざかりつつあった。それならば言わせてもらってもいいだろう、何十年も我慢してきたのだ、と一茶は思ったのである。
この時、一茶の心の中で大きく何かが爆ぜたのでしょう。今週のいて座もまた、そうした秘めた炎を暴発させていく機会を得ていくかも知れません。心してください。
今週のキーワード
「一笑してことは済みたる」