いて座
生命感覚の発露
望ましい“なまなましさ”
今週のいて座は、「牡蠣啜るするりと舌を嘗めにくる」(坊城俊樹)という句のごとし。あるいは、いのちの本質としてのせめぎあいを追求していこうとするような星回り。
殻を外したばかりの生牡蠣は生きている。というより、その生きのよさを賞味する料理ですが、とはいえやられっぱなしではないという話でしょう。掲句は、そんな食べようとして啜った人間の舌を、逆にするりとなめに来た牡蠣に対する純粋な驚きを詠んだ一句。
ただし、ここで重きが置かれているのは牡蠣の滑らかな舌触りや、食体験としての珍奇さだけでなく、自分が食べようとしているモノがまさに生き物の「いのち」であることを、作者は改めて再確認させられたということではないでしょうか。
上五の「啜る」から、中七の「するりと」「舌に」と、S音が続くのも、そうした他の生命を屠らんとする者と食べられまいとする生命の側とのせめぎあいを、じつになまなましく実感させるという点でじつに効果的です。
13日にいて座から数えて「好きな実感」を意味する2番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分にとって望ましい“なまなましさ”がどんなものかということを、改めて手探りしていきたいところ。
雑然たる実験室
世界で初となる人工雪の製作に成功した物理学者の中谷宇吉郎は、多くの随筆を残したことでも知られていますが、その中で次のようなことも書いています。
実験台の上には色々な小道具大道具が雑然と積み重なり、戸棚の中は勿論その上までわけの分かぬ手製の器械で一杯になっている。その中をかき分けるようにして、皆が実験しているのである。雪のような綺麗なものが、こういう所が好きだというのは、ずいぶん不思議である。(『実験室の記憶』)
中谷が言うように、ほんのかすかな設えの妙や、おどろくべきほどの気まぐれさといった部分こそが、全体のパフォーマンスを左右してしまうことは珍しくないように思いますが、それはなぜかと改めて考えてみると、おそらくはそうしたものこそが“なまなましさ”ということの本質であり、それが人の想像力を大いに刺激するからなのでしょう。
今週のいて座もまた、自分を整えすぎる前に、どうしても片付かない断片を見出し、そうした半端や中途にこそ驚くような奇蹟を起こすだけの可能性を感じていくことができるはずです。
今週のキーワード
断片こそ全体を凌駕する