いて座
淋しさとその器
真夏の晴れた海
今週のいて座は、「淋しさは船一つ居る土用浪」(原石鼎)という句のごとし。あるいは、もうひとりの自分の後ろ姿を目撃していくような星回り。
真夏の最も暑い土用の浪は、風はなくても気圧の関係で浪が高くうねるのだと言います。
紺碧の海に打ち寄せる怒涛と白飛沫、空はどこまでも青く、雲は水平線に立ち昇り、太陽は燃え続けている。そんな圧倒的な自然が展開されている広い海原で、ただ一艘の船が浮かんでいる光景を、作者は「淋しさ」と表したのです。
それは技巧的な狙いがあるというよりは、ひとりごとのように口を衝いて出たという感じで、ぎらつく太陽のもとでかえってそこだけしんと静まり返った船の姿に自分を重ねたのかも知れません。
作者は医者の家の三男として生まれるも、中学時代から文学や句作に熱中し、ドロップアウト。その後各地を放浪し始めるも、医者になれなかったことを叱責され両親から勘当されたり、俳句の師である高浜虚子との対立を深め絶縁されるなど、時代の寵児として活躍しつつも、いつもどこか人生に暗い影が差し込んでいるような印象の人でした。
けれど、だからこそ主観過剰なその作風はみずみずしく、後進の指導にも熱心であったとも言われています。
27日にいて座から数えて「心の奥底に潜む思い」を意味する12番目のさそり座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、これまで思ってもみなかったような自分の一側面や意外な感情が湧いてくるのを見出していくことができるかも知れません。
行間に潜むメッセージ
人間心理についての鋭い洞察で知られるラ・ロシュフーコーは、その怜悧な知性によって数々の偽善や自己欺瞞を暴き出してみせましたが、中にはそうした冷たいトーンとは一線を画する一言を垣間見ることがあります。
純粋で、ほかの情念がまったく混じらない愛があるとすれば、それは心の底に隠されていて、われわれ自身も知らない愛である。
自分自身でも気づいていないような愛があるとすれば、周囲にある全てが引きずられ沈み込むような淋しさをさえ受け入れる海のような何かでしょうか。少なくとも、そういうものに支えられることで、私たちは人生という旅路を現に航行できている。だからこそ、自分の力に秘められた可能性について、決して過小評価してはならない。
そうした言外のメッセージをラ・ロシュフーコーは投げかけてくれているのかも知れません。そんな彼の読者との関係の作り方には、今週のあなたを啓発するのに十分な愛が確かにあることが分かるでしょう。
今週のキーワード
われわれ自身も知らない愛