いて座
あぶない橋をわたっていくこと
高まる意識の渦潮
今週のいて座は、「短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)」(竹下しづの女)という句のごとし。あるいは、自分の生き方そのものへ必死に問いかけていこうとするような星回り。
「須可捨焉乎」は漢文調の表現で、現代語に訳せば「すてっちまおか」という口語の言い回しとなり、一見かなり過激な表現に映ります。
実際、母親として失格であるとか、漢文の知識をひけらかしているなどの批判も生まれたそうですが、この漢語部分は反語表現であり、「捨てることができようか、いや、絶対にできない」という強い思いを込めた言葉なのです。
とすると、あえて口語調ではなく漢文調にしたのはある種の照れ隠しであり、作者の言葉を借りれば「最後の手段、非常手段」なのであり、それは忙しく辛い中でも、子を愛し、家を守るよき主婦でありたい自分と、古い価値観を打ち捨て新しい時代を生きる自立した女性として生きたい自分との激しい葛藤が心の叫びとなって表現されたのかも知れません。
この句が俳誌に掲載されたのが大正九年。自由主義と女権の拡張を掲げて雑誌『婦人公論』が創刊されたのが大正5年、家庭の女性の地位向上を目指して『主婦之友』が創刊されたのがそれぞれ大正6年ですから、掲句もそうした女性の意識の高まりによって喚起され、呼び出されたものと考えるのが自然でしょう。
14日にいて座から数えて「自己価値」を意味する2番目のやぎ座にある木星・冥王星に改めて焦点があたっていく今週のあなたもまた、自分を価値づける新旧の考え方がぶつかりつつも、それが時代に引っ張られつつあるのを感じていくことができるはず。
自分を信じて橋をわたる
橋わたりの達人でもあった西行の歌に、こんなものがあります。
五月雨はゆくべき道のあてもなし 小笹が原もうきに流れて(『山家集』)
ここで西行は、あてなく流れる五月雨に、あてのない自分自身の旅路と、うき(浮き、憂き)世のはかなさを掛けているのでしょう。
でも、それは自分で求めていったものでもあり、けっして悲嘆している訳ではありません。
むしろ、求めていった先で出会う矛盾や疑問、悲哀と夢、得体の知れないものの気配。それら一つ一つを感じて動いた先こそが、「橋(端)」であり「境界線」、そして自己価値のありかなのです。
今週のあなたもまた、それらのうちの一つでもあぶり出していくことを心がけていきたいところ。
今週のキーワード
むすんで ひらいて