いて座
うろ覚えの物見遊山
ひたすらにうろうろする
今週のいて座は、「豆腐小僧」のごとし。巨大な蓑笠をかぶり、一丁の紅葉豆腐を持って「うろうろする」だけの子供姿の妖怪。それが豆腐小僧であり、今週のあなたにもどこか重なる姿であります。特に悪さをすることもなく、お人好しで気弱な妖怪だけに、癒し系キャラとして道中でさまざまな他の妖怪と交わることができ、ある意味でそのつけ入る隙の多さや頭の空っぽさこそがこの妖怪の特徴と言えます。
あるいは、「気弱でお人好しな妖怪」という、それ自体矛盾した表現は、人が自分の願望や存在目的をうっかり忘れてしまっている状態のメタファーなのかも知れません。
つまり、豆腐小僧とは何か大事なことを思い出しつつある「うろ覚え」状態の人間心理そのものであると。だとするならば、何らかのネガティブな思念や、誰かからの暗示的言辞に囚われたまま催眠状態でさまよい続けるか、遊び心たっぷりに他者や友人と交わり多様な視点に触れていくことで、次第に意識をハッキリさせていくことができるか、それこそが今週の焦点となってくるでしょう。
有漏から無漏へ
明確な目的を持たずにあちこちをほっつき歩く「うろうろ」の「うろ」とは、本来「有漏」という字をあてる仏教用語なのだそう。
「漏」とは穢れや煩悩の意であり、あれかこれかと悩み惑い、決断しかねて迷っていく中で、時に人は次なる目的地やそこへの道のりさえも忘れてしまう。これが「有漏」なのですが、それが行くところまで行って、迷いがなくなるまでうろうろしきってしまうと、今度は反対に「無漏」となり、豆腐小僧は突如自我に目覚めてうろつくのをやめ、再び旅路へと戻っていくのです。悩みが尽きるまで、ひたすらにうろつき回りましょう。
今週のキーワード
うろ覚え状態のメタファーとしての豆腐小僧、催眠状態をとくこと、その鍵は友人と話をすること、うろうろの効能、旅路へ戻る、宝田正道『なるほどザ・仏教語』