うお座
綱渡りの儀式
演技にいのちを吹き込む
今週のうお座は、ピーター・ブルックの「タイトロープ」のごとし。あるいは、みずからの生きる演技の「クオリティ」と呼べるものまで引き上げていこうとするような星回り。
数々のシェイクスピア劇を演出してきた演劇界の生きる伝説ピーター・ブルックが、本物の舞台を生みだすため、長年にわたる実験と実践を重ねて作りあげた取り組みに「タイトロープ」というものがあります。
世界中の役者たちが参加するこのワークショップを、5台の隠しカメラを使ってブルックの息子のサイモン・ブルックが2週間にわたり密着取材したドキュメンタリー『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』におさめられたブルックの言動から、うお座での満月を先週迎えたばかりの今のうお座の人たちにふさわしい言葉を引用してみましょう。
理論は役立つし良い本もある。学校にもある程度長所がある。しかし演劇の本物の行為というものは、人の心に触れ、痕跡を残すこと。クォリティーと呼べるものまで、昇華された演劇は、より骨太で、より品格のあるものであり、演劇そのものに生命が息吹き人生が描かれるようになる。役者や演出家がたどる道筋を照らし教え導いてくれる。それこそがまさに深淵の上層に横たわる果てしない“綱渡り”なのだが、いつも人はその深淵にあまりにたやすく落ちてしまう。
この「クォリティー」というものについて、ブルックは別の箇所で次のようにも語っています。
手と身体と目が繋がっていると、感じられる瞬間がある。そのことを頭で考え集中しようとすると、クオリティは消え、足が震えだす。でも演技のクオリティについて、頭で考えずに、自然に自由でいられるなら、動きに意味が与えられ、意識と呼応する。
つまり、何かを知識として学んだとしても、いつまでも頭で考えるばかりで、それが身体の動きや視線の置き方などに落とし込まれ、きちんと意味のある動きと連動していくのでなければ、誰かの心を動かすようなクオリティを発揮することはないということ。
9月22日にうお座から数えて「決定的なつながり」を意味する8番目のてんびん座へ太陽が移っていく(秋分)ところから始まる今週のあなたもまた、そんな風に自分を超えた何かが生まれる瞬間を感じ取っていきたいところです。
自分自身への贈与と授受
ブルックのタイトロープのような「イニシエーション」というのは、頭の中だけでただ空想しているだけでは決して成立することはありません。覚悟をもってみずからにそのきっかけを与え、通過する意志を発動していくのでなければ、それは成し得ないのです。
多大なる自己には当然他人など存在しない為、
薬であれ毒であれ、与えることは得ることとなり、
得ることは与えることに因る。
それが循環という理、輪(和)の回り方である。
(橋龍吾、『銀河飛行』)
例えば新しい服や香水を買うのであれ、これまで行ったことのない街へ行くのであれ、それが自分自身への純粋な贈与である限り、どんなものであれひとつの祈りなのであり、あなたがあなたのまま、大いなる自然の循環に与していくための儀式となっていくはず。
今週のうお座もまた、どんなにささやかなものでも構わないので、そうした意味でのイニシエーションをみずからに与えたり、受け取ったりしてみるといいでしょう。
うお座の今週のキーワード
「では、これまで生きてきた中で一番丁寧に歩いてみてください」