うお座
帰ろうか
安全装置の再確認
今週のうお座は、「生き残った側」に立って酩酊について書いた中島らものごとし。あるいは、夕食を告げる母親に連れ戻される子ども時代へと立ち返っていくような星回り。
普段から真面目であまり羽目を外すこともないという人ほど、いったん危ない一瞬にいくと、そのままこっち側に戻ってくることなく、あちら側へ行ってしまうことが多いもの。しかし、普段から頻繁にあちら側へ行っておきながら、こっち側に戻ってはあちら側での体験について書いた作家のひとりに中島らもがいます。
彼がアル中になって入院し、その余った膨大な時間でヤク中になった自らの実体験を本にした『アマニタ・パンセリナ』には、睡眠薬、シャブ、阿片、幻覚サボテン、咳止めシロップ、毒キノコ、有機溶剤、ハシシュ、大麻やLSDなどさまざまなドラッグの話が登場し、それらの大半が「ジャンキー」の側から語られており、当然のことながら身近な愛すべき人たちが幾人もあっけなく死んでいきます。
「腐っていくテレパシー」というバンドをやっていたカドくんや、オーストラリア人の大男で大酒飲みで薬物中毒だったマイケル、ショーウィンドウの飾り付けプランナーだったスキニーなど。彼らと中島とを分けたものは一体何だったのか。
おそらく、「自失する」気持ちよさとは別に、「自分に即して物を書く」ことのよろこびを知っていたからではないでしょうか。つまり、最初は膨大な学術書からの孫引きで本を構成しようと考えていたものの、「そのうちに「バチが抜けて」、内容がどんどん私的なものになって」いくにつれ、中島は自分自身や仲間たちについて書き出す文章に酔っていったし、それで何度もこの世界に連れ戻されたのでしょう。
8月26日にうお座から数えて「安全安心」を意味する4番目のふたご座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、無意識の海へと溶けていきがちな自分をこの世に連れ戻してくれる「命綱」とは何かということが改めてテーマになっていきそうです。
家路を照らしてくれるもの
例えば散歩の帰り道、あなたの握っているリードをグイと引いてくれる犬。
そういう犬というのは、人間のエゴイズムをすべて受け容れ、ときどき主人の手に噛みつきながらも、夕暮れ時になれば「帰ろうか」と促してくれる自然なやさしさを持ち合わせています。
生きているかぎり、人は目に見えない首輪をはずすことなどできず、つながれた場所へと帰っていく他ありません。
そういう悲しさと滑稽さのない混ぜになった感情というのは、心の奥深くまで洗い落とすかのような清冽な働きをもするものですが、同時にそうした働きにこそあなたの気持ちを再び弾ませ、大切なものに気付かせてくれるヒントが現れてくるでしょう。
今週のうお座もまた、一発逆転的な快楽ではなく、ささやかな楽しみや小さな幸福をこそ求め、そうしたある種の「家路」をそっと照らしてくれるものを大切にしていくべし。
うお座の今週のキーワード
悲しさと滑稽さのない混ぜになった感情