うお座
ゆるす
亡霊と向きあう
今週のうお座は、『少年の雨の匂ひやかぶと虫』(石寒太)という句のごとし。あるいは、ひとつの現実としての狂気に相対していこうとするような星回り。
この句は、雨の日に家でひとり、かぶと虫と遊んで孤独をまぎらわしている遠い過去の子どもの姿を想像させます。ふつう、少年とかぶと虫と言えば、虫取り網を手にして野山を駆け回っている健康的な姿をイメージするものですが、掲句は言わばそれをひっくり返してみせている訳です。
ここで詠まれている「雨の匂い」とは、おそらく作者が実際に接している現在の天気に起因するものであると同時に、作者の幼少時の記憶の中でえいえんに降り続けているものであり、作者にとっての少年体験の本質にもなっているのではないでしょうか。
かぶと虫の力強さや華麗な活躍に憧れるのも少年ならば、網戸の外で降りしきる雨の匂いに染まりながらかぶと虫にある種の虚しさを見出すのも少年なのです。
その意味で、少年というのは大人以上に自分の無力さや疎外感に敏感にならざるを得ない状態に縛られた狂気の一形態であり、掲句はそんな自分の狂気に寛大であろうとしていく試みなのかも知れません。
8月2日にうお座から数えて「無意識の調整」を意味する12番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、これを避けては前に進んではいけないと思われるような過去の亡霊を成仏させていくことがテーマとなっていきそうです。
石川逸子「風」
遠くのできごとに/人はやさしい
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
近くのできごとに/人はだまりこむ
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
遠くのできごとに/人はうつくしく怒る
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
近くのできごとに/人は新聞紙と同じ声をあげる
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
これはほんの冒頭ですが、そよ風のようにやさしく書かれた内容に中に、怖いものを含んでいます。地上をそうそうとさすらっていく風(「おれ」)は、何も言わない代わりに人間たちの本当のところを実によく知っているのだと言うのです。
例えば正義感や恨みつらみというものを自分の身近なところで実際に貫くことは難しいし、大抵の人は変な巻き込まれ方をされたくないと、素知らぬていで知らんぷりを決め込むか、そもそも気付かないふりをするかがほとんど。
今週のうお座もまた、自分の内側にもうこれ以上持ち合わせていたくないものがあれば、それとなくそれをあぶり出し、そっと吹き消していきたいところです。
うお座の今週のキーワード
風はすべて知っている