うお座
ヤシの実の遠い記憶と共に
広大な海に浮かぶ島としての現実
今週のうお座は、「ヤポネシア」という言葉のごとし。あるいは、これまで自分が見てきた現実とは異なる、もうひとつの現実を見ていこうとするような星回り。
特攻隊の部隊長として南洋の島に赴任し、飛行一歩手前で終戦を迎え、その後奄美に移住して暮らした作家の島尾敏雄は、戦後になって日本のことを「ヤポネシア」と呼びました。これは島尾の造語なのですが、その意図について島尾は次のように書いています。
たとえば太平洋を地図の絵図面の中央に据えてみよう。そうすれば、大陸は図面の両わきにすさってしまい、まんなかに広々とした青一色に塗られた忘れられた島々の部分があらわれてくる。(中略)そしてこの絵図面の中では日本が、さきの地図の中とは、すこしようすが変わって見えるのがおもしろい。それはもう大陸にしがみつこうとしている姿ではなく、太平洋の中でゆったりと手足をのばしているもうひとつの日本のすがたといっていい。ヤポネシアと名づけられなかったのがふしぎなくらい、南太平洋のほかの島嶼群と似通った状態をそこに広げているところの島々のグループだ。(『ヤポネシア序説』)
ヤポネシアという響きは、「ぼかの島嶼群」であるポリネシアやインドネシア、ミクロネシアなどと同様、古代ギリシャ語で「諸島」を意味するネーシアに由来しています。考えてみれば、今や海外の国々にも飛行機で気軽にいけるようになりはしましたが、一方で、日本では近代化の過程で街中を縦横に走っていた多くの水路や川が埋め立てられ、暗渠(あんきょ)にされていくことで、わたしたちの日常世界はすっかり“大陸的”になってきました。
そこでは地盤は安定し、揺らぐことなどないかのようにも感じられますが、311のような甚大な被害をもたらした大地震を経験して以降の世界では、そうした神話は人びとの意識の中でもすっかり揺らいでしまっているのではないでしょうか。
その意味で、26日にうお座から数えて「アイデンティティークライシス」を意味する9番目のさそり座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、これまで自分が当たり前のように受け止めてきた“事実”や“現実”を、まったく違う形で認識し直していく必要に駆られていきやすいでしょう。
非意識的な連帯
何かが軋む音や、鼻をつく匂い、いつもとは異なる感触、窓の外でゆれる漆黒の葉陰……。
不意にそうした体験が差し込まれた時、記憶の底に埋もれていた感覚や感情まで想い出され、意識がどこかへ連れ去られてしまうといったことがあります。
あれは私自身の記憶、こっちはネットで知った情報、これは知り合いから聞いた体験談。そんな風に普段は頭の中で整理されていた情報が、さながら嵐の海のようにかき混ぜられ、人称による区別が消えていくのです。
そうして偶然性の深淵から発する波に乗っていくと、自分がこの世界に独立した個人として存在するようになったはるか以前には、ゆるやかに結びついたネットワークの一部としてたゆたっていたのだ、という感覚に開かれていくことできるはず。
今週のうお座もまた、そうした非意識的な連帯に自身の身を委ねていくようなところが出てきやすいでしょう。
うお座の今週のキーワード
偶然性の海で流されてみる