うお座
Hey!Say!Jump!!
地鳴りのような句詠かな
今週のうお座は、『蛙けろけろ鉱夫ほら吹き三太の忌』(野宮猛夫)という句のごとし。あるいは、余計なことは考えずただ思いの丈を吐き出していくような星回り。
この俳人のことが知りたいと思い、キーボードを叩いて分かったのが以下のような情報。
北海道の漁村に八人兄弟の末っ子として生まれ、子供の頃から浜辺の昆布引きに加わる。尋常高等小学校卒業後、ニシン船に乗船するも、ニシンの不漁にともない炭鉱入り。落盤事故で脊椎を痛めたことをきっかけに川崎に出て以降はダンプカーの運転に従事。
やはりこの経歴にして、この句あり、と言わざる得ないむき出しのエネルギッシュさが掲句にはある。「三太」なる人物がいったい誰で、どんな人生を送り、作者といかなる仲だったのかはもはや関係ない。「蛙けろけろ」「鉱夫」「ほら吹き」「三太の忌」と連なるいずれの言葉もテンションが異常に高く、ふんぞり返った解釈のすき間などこちらに微塵も与えてくれはしない。
たまたま飲み屋で隣り合わせになって以来、酒の肴に耳にしてきた人生語りを、飲み友達がいなくなった寂しさをふと感じた機会に、一気に吐き出して句にしただけの話かもしれない。それでも、掲句を口に出して唱えるとき、そこには卑しくも厳粛な俳の調べが体感されてくるはず。
6月21日にうお座から数えて「表出」を意味する5番目の星座で夏至(太陽かに座入り)を迎えていく今週のあなたもまた、掲句を3回唱えてジャンプしてから自分事を叫ぶべし。
うねりそのものとなる
『詩歌と芸能の身体感覚』という本の中で、芸能評論家の朝倉喬司は浪花節的なものの特徴である「唸り」のリズムについて、次のように述べていました。
原型らしきものが出来たのが江戸の文化文政期と言ってもいいのでしょうが、社会的には最下層部分から立ち上がった。「非人」と言われた人たちとか、願人坊主とか、浮浪化した山伏というか、大道でいろいろな芸能要素がカクテルされて、そこでずっと芯に残ってきたものがあって、それが「唸り」ということだと思うんです。
つまり、社会の下層にいた庶民の生きるエネルギーが、闊達(かったつ)さを身上とした芸能を通して集団的・歴史的に凝集し、説法とも煽動ともつかない危険なリズムへと変換されたものこそ、浪曲という古典芸能の根底にあるリズムの芯であり、それは言わば身もだえするような人情のうねりなのでしょう。
そしてそうした「唸り」とも「うねり」とも表されるリズムは、掲句にもどこか通底しているように思います。その意味で今週のうお座もまた、これまで胸の奥に秘めてきた思いや情念の固まりが時を得てほとばしり、解き放たれていくことになるかも知れません。
うお座の今週のキーワード
説法とも煽動ともつかない危険なリズム