うお座
視界の端で何かが動く
イメージの飛び出し
今週のうお座は、『原子炉に水打つ女が夢に立つ』(渡辺誠一郎)という句のごとし。あるいは、不意に遠心力が加わってグワーンと振り回されていくような星回り。
原子炉は確かにその内部を冷却水で冷やすなどして核分裂の反応スピードを調節していますが、とはいえ、その水温は約280℃ほどもあり、高温高圧の水蒸気なのだとか。つまり、掲句の描写は事実からだいぶかけ離れたものであり、あくまで幻想や夢として描かれているということ。
中七の「水打つ女が」が字余りとなっていて、どこか持てあましている感じがあるのも、現実ではありえないと自分でも分かっているはずの「原子炉に水打つ女」というイメージが、そうであるにも関わらず無視できず、かといって現実世界との結びつきを見出すことも不可能なために、作者の内部に絶妙な“引っかかり”を生み出していることと表裏の関係にあるのでしょう。
その意味で、いい歳をした男が何の脈絡も、必然性もなく、ある日突然出現してきたイメージや、それをきかっけに湧いてきた感情に振り回されている図を、あえて公開してみせた句なのだとも言える訳です。そして、こうした出来事の度合いというのは、自分のことを賢いと思っている知識人や、お偉いさんであるほど、より強烈になっていくように思います。
同様に、8月12日にうお座から数えて「潜在的なもの」を意味する12番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、概念的で体系的な把握の外へと放り出されていくようなことが起きていきやすいでしょう。
閾値を超えやすいとき
人ひとりが歩くのに最低限必要な道幅だけを確保して、その両側をとりさり、切り立った深い崖や谷をつくったらどうなるか。そういう道を「さあ行け」と言われても、ほとんどの人は足がすくんで動けなくなってしまうはず。これは一体なぜなのでしょうか。
このような“谷”を機械工学では「不気味の谷」と呼びますが、最近は人型ロボットの様態があまりにも人間に近いときに違和感や嫌悪感を抱いてしまう現象として、より一般的に知られるようになってきました。
人間の知覚の中にはこうした「不気味の谷」がさまざまなかたちで潜んでいて、それは私たちの意識や考え方、行動を通じて、なぜか抱えてしまっている不要の領域であり、その存在理由を合理的に説明のつかない「しっぽ」のようなものなのだとも言えます。
そして、こうした不気味の谷の問題は、例えばぎりぎりまでお酒を吞んでみたいとか、とことんハメを外してみたいとか、冒険や探検などで極限状態に身を置いてみたいとか、そういう自分の臨界値を越えた隠れた次元を覗いてみたいという衝動へと私たちを時おり駆り立てるのです。
今週のうお座もまた、これまで低く見積もっていた閾値を上回っていくような体験を自然と求めていくことになるかも知れません。
うお座の今週のキーワード
不合理ゆえに我いかん