うお座
素でおかしいが、それでいい
必死であること
今週のうお座は、「妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る」(中村草田男)という句のごとし。あるいは、自分の信じる道をただ歩んでいこうとするような星回り。
いっだいどんな強制力が働いたら、のっけから「妻抱かな」などと始まる句をこんなに堂々と詠むことができるのか。
文字通り、作者が赤裸々な夫婦生活を詠んだ一句ですが、うらやましくもなんともないのが不思議と言えば不思議です。明るく、あたたかい「春昼(しゅんちゅう)」の、静かでのどかな空気をぶち壊すかのように「ジャッジャッ」と響く砂利を踏む音からは、どこか夫の必死さというか、鬼気迫る想いが伝わってくるようです。
よく知られているところではありますが、自分たち夫婦のことをアダムとイブだと思っていたそうですから、自分たちの布団から新人類でも作り出そうと躍起になっていたのかも知れません。
演技でも何でもなく、真剣にそういうことを考えることができて、こんな歌にまでしてしまう作者は、おそらく本物の天才だったのでしょう。
同様に、2月8日にうお座から「サバイバル」を意味する3番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どんな獣道であれ、作者くらいの必死さで歩いて行きたいところです。
光を届ける媒体として
古代ギリシャの人びとによれば、太陽神アポロンは祝詞をつくり、それを正しい韻律にのせることによって、運命の女神さえ味方にしたのだと言います。
そしてその力によって、春の訪れを告げる東風のように、目に映る景色を一変させ、悪神の働きさえも鎮め、多くの人の未来を守護してみせたのだとか。神を崇める古代ギリシャでは「神像」が発展しており、その代表格こそアポロンだったのです。
なぜアポロンにそんなことができたのか。その秘密は、彼が何より、そこはかとない不安や狂気、妬みや嫉み、功名心など、この世に巣くう何らかの「過剰さ」から人間の魂を解放することができた点にあります。そうして彼の守護下では、みな平素に戻って、言葉ではなく行為を通じて、各々が全うすべき役割を淡々とこなしていけたのです。
今週のうお座もまた、自分なりの果たすべき役割や行くべき道筋、そこで自分の中で培われた光を、自分なりの行為や身体、リズムで届けていけるかどうかが、よくよく試されていくことでしょう。
うお座の今週のキーワード
アポロンの祝詞としての妻恋俳句