うお座
天に問うということ
言外の思い
今週のうお座は、「天空は生者に深し青鷹(もろがえり)」(宇多喜代子)という句のごとし。あるいは、重要な計画であるほど、打算や比較によってではなく純粋な敬意や情熱から始めていくこと。
星占いなどを嗜んでいるとつい忘れがちになりますが、天空は見上げる分には誰もが慣れ親しんでいるけれど、実際には生きている人間には決して触れることも、ましてや思い通りにすることも叶わない、あくまで遥かな場所として存在しています。
作者はそうした線引きを「天空は生者に深し」というあざやかな言い方で、見事に表現している訳ですが、そこには言外に天空からこちらを見つめている死者の臨在への強い思いがあったのではないでしょうか。
取り合せで詠まれた「青鷹」とは、生後3年を経ている若い鷹のことで、何十年も生きると言われている鷹の中ではまだまだ若造もいいところ。それだけに、生者と死者という垣根を超えて互いに励まし合う関係にあった身近な誰かのことを、そこに重ねていたのかも知れません。
その意味で掲句は、垣根を超えるという行為やその可能性が、蛮勇によってではなく、友愛や敬愛によって想像されている稀有な句なのだと捉えることもできるはず。
15日にうお座から数えて「際限のない追求」を意味する9番目のさそり座で新月を迎えていくあなたもまた、自身が命運をかけるべき試みの動機付けについて、改めて深めていきたいところです。
兆しと願い
作者とともに名前が浮かんでくる作家に中上健次がいます。彼らはある時期をともにし、中上は若くして亡くなりましたが、それ以後の作者の活動の根底にはおそらく中上の影響があり続けたのではないでしょうか。
人生のわかれ道をなんとか無事に通りぬけていくためには、人は自分の手で何かを選ばなければなりません。掲句の状況ならば、「青鷹=中上」を見ないふりをしたり、忘れたり、はたまたそもそも気にも留めないという選択肢や可能性だってあったでしょう。
ただ、結局はそれも「自分が選択したのはここだったのか」と後から意識が追いつくことになる訳で、本当のところは最初からそんな予感がしていたのだと思います。
天に遍在する未来の“兆し”は、それを問うものの胸の内に深く沈んでいた願いと呼応しているのであり、占いという文脈においてもそれが確認されていくだけのことなのでしょう。
あくまで深く納得するための事後確認として天より来る事実を見つめ、みずからの胸の内の結論へ帰納する。今週のうお座はそういう市井へ、自然と通じていくことができるはず。
今週のキーワード
「天空は生者に深し」