うお座
境界線上のアリア
雲に鳥
今週のうお座は、「此の秋は何で年よる雲に鳥」(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、自らの心を語るべき相手を求めていくような星回り。
掲句は、芭蕉最晩年の一句であり、前書きには「旅懐」とある。つまり、ここで芭蕉はただ純粋に旅に思いを馳せているのであり、同時にそこに老境の孤独がしみている。
しかし、そこには悲愴さはない。おそらくそれは、「年とる」のと「年よる」の違いということを芭蕉がよく知っていたからだろう。
何もしなくても、誰もが平等に年をとる。しかし、年が自分に寄るようにさせるとは、芸術や文学の境地を深めるということであり、後者はいつだってどこまでも孤独でなければできない作業なのだ。
したがって、この句から漂う孤独感は、何か特定の出来事や事物から来たものではなく、もっと深く人生の根源的なかなしさに関わっている。
29日(日)にうお座から数えて「狭く深い人間関係」や「感情の浄化」を意味する8番目のてんびん座で新月を迎えていく今週は、いつも以上にもっとかなしくなるくらいでちょうどいいだろう。
ただし、ただ独りかなしくなるだけでなく、そんな心境を口にする相手や場を持ってこそ、かなしみもより深まるというもの。
十字路になりなさい(Be a crossroad)
メキシコ国境地帯に生まれたチカーナ=メキシコ系アメリカ人であったアンサルドゥーアは、レズビアンとしても知られており、多重的な意味で「ボーダーランズ(境界地)」を生きた人でした。
そこでは、容易には「コミュニケーション」など成立しないし、本当に成立するのかさえ分からない。
何十回、何百回と紙の上に線や声をのせてなぞっていくことで、ようやく小さな声やひっかかりのようなものを感じて、そこから詩が始まっていくように。
「きみが境界線を生きるとき
人々はきみの中を通過していく 風がきみの声を奪う
きみは雌ロバ 去勢牛 犠牲の山羊(スケープゴート)
新しい人種を告げる者
半分と半分―女であり男でありいずれでもない―
新しい性
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ボーダーラインで生きのびるためには
きみは境界なく生きなくてはならない
十字路になりなさい」
(グロリア・アンサルドゥーア、『ボーダーランズ/ラ・フロンテーラ』)
考えてみれば、芭蕉という人もまたじつに巨大な十字路でしたが、今週はあなたなりのやり方で、アンサルドゥーアや芭蕉に近づいていくことをどうか念頭に置いてみてください。
今週のキーワード
「ボーダーランズ(境界地)」を生きる