うお座
言葉の手触り
正確さより手触りを
今週のうお座は、「みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす」(与謝野晶子)という歌のごとし。あるいは、自分をさらけ出さんとする際の自分なりの感触を鮮やかなものしていこうとするような星回り。
朝の風景を詠んだ歌です。それも、おそらくは初めて一緒に夜を過ごした相手と迎えた朝。
「京の島田」というのは当時未婚の女の人の間で流行った髪型のことで、それをきれいにセットできただけで嬉しい乙女心と、そこにまだ寝たままの相手がいることの生々しさと。その両方が見事に日本語となって結実しています。
言葉なんて、分かりやすく伝わればそれが一番いいではないかという意見もあるかもしれませんが、こういう何気ない実感をぎゅっと凝縮したような歌と出会うと、いやいや伝えたい内容にふさわしい手触りが大切なのよ、と改めて思ってしまう。
そう、今週のうお座の人たちにとっても、そういう自分の実感を伝えるのにちょうどいい手触りへどれだけこだわれるか、ということがとても大切なテーマとなってくるように思います。
コミュニケーションというものは、単に情報を伝達するだけのものではなく、語り口や言葉遣いによって、そこに漂う響きや手触りや柔らかさが変わってくる。そういうことを、改めて実感していきたいところです。
翻案と差異
ちなみに、冒頭の与謝野晶子の歌は、後に俵万智が「チョコレート語」バージョンで次のように現代語に翻案しています。
「朝シャンにブローした髪を見せたくて寝ぼけまなこの君ゆりおこす」
特に「朝シャン」と「寝ぼけまなこの君」という言葉の取り合わせが面白いですよね。与謝野晶子自身の風景から、ぐっと私たちの実感に迫った風景になっている。
とはいえ、それも間違いなく類まれな俵万智の言語センスによって、元の意味が失われないギリギリのところで、より楽しくポップな響きで伝えてくれているにすぎません。
つまり、ただ単純に分かりやすく噛み砕きましたという話ではなく、あくまで俵万智なりの響きで似た実感が表現されている。もっと言えば、元の歌との差異がことさらに彼女の歌の鮮やかさを引き立てているようでもあります。
今週のうお座にとって、そんな俵万智の仕事は格好の指針となっていくでしょう。
今週のキーワード
『チョコレート語訳 みだれ髪』