てんびん座
夜道の秘儀
5月の色
今週のてんびん座は、『プラタナス夜もみどりなる夏は来(き)ぬ』(石田波郷)という句のごとし。あるいは、夏闇のなかひとり青く染まっていくような星回り。
芽吹きから若葉になったばかりのプラタナスの並木道を、夜に歩いていた時の句でしょう。街灯のあかりがプラタナスの緑を透明な緑に変化させている様は、昼の太陽光に照らされた緑とはまた違った美しさがあります。
冬の間はひとの往来も少なく、たまに通っても家路を急ぐような早足だったり、街路樹など見上げる余裕もなかったようだったのが、プラタナスが青く茂ってからは、人々は夏が来たことを喜んでいるかのように往来も増え、その足どりもどこかゆったりと、のびやかなものになっていく。
そして、夜の街灯を受けて青く透けるプラタナスは、その下を通り抜けていく人々をも青く染めていき、それを感じ取った瞬間に、その人に「夏は来ぬ」!
それは人がいくつになっても秘めている青春の浮上であり、5月という特別な季節だけがもっている祝福の声音に対する呼応現象でもあるのではないでしょうか。
5月1日にてんびん座から数えて「再誕」を意味する5番目のみずがめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ふとそんな瞬間を噛みしめていくことになるかも知れません。
分かれ道をゆく作法
昔から、分かれ道にプラタナスのような大きな樹が生えているような三叉路が好きでした。夜にそこを通ると、昼間とはまったく別人のように暗い影を落としていて、こちらの心を試し、迷わせるのです。
そこでどちらの道をゆくかを勘だけで決めていくことになる訳ですが、何度かやっていると、たまに「あ、こっちで正解だった」と妙に確かな手ごたえを感じることがあるのです(散歩なので、本来ならばべつに決まった正解などありません)。
おそらく、それは雰囲気に流されないで、その時どきの自分の体調や気分にマッチした方の道を選べたということなのだと思います。考えてみれば、私たち日本人というのは、純粋に自分のことだけに集中して何かを選択をするということがほとんどできていないか、たまに出来たとしても苦手としているように思います。
今週のてんびん座もまた、できる限り人の顔色をうかがうのではなく、ただ自分の身体や感情と対話しつつ、歩くべき道すじを自分なりに選んでみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
「夏は来ぬ」!