てんびん座
酔狂の塩梅
遅速愛
今週のてんびん座は、『二もとのむめに遅速を愛すかな』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、人知れず積み重ねてきた苦労を共にねぎらっていかんとするような星回り。
「むめ」は梅に同じ。2本の梅があれば、早咲きもあれば、遅咲きもあるだろう。その咲き方の異なり具合がいいのであって、それでいずれかに優劣をつけたり、片方を貶めたりするのは愚の骨頂。異なる2本ながらの梅をともに愛でてこそ、梅の方だってより見事に咲いていくというものだろう、と。
これは作者一派とも交わりのあった同じ俳人の三浦樗良(みうらちょら)との間柄について、互いに相手を陰で悪く言い合っているという根も葉もない噂が流されたのを耳にしたのを受けて、樗良のもとへ申し送った一句であり、すなわち「二もとのむめ」のうちの1本とは自分のことを表している訳です。
そうすると、今度は「遅速」に該当するのはどちらかということも問題になってきますが、作者は若いころは放浪生活に明け暮れており、40歳を超えてようやく花開いた遅咲きの人。一方の樗良も樗良でやはり困窮のうちに各地を遍歴するなどの苦労人であり、蕪村より10近く年下とは言え、決して早咲きではなかった。つまり、ある意味で2人はともに俳人として花開いたその遅速ぶりを相争っている仲でもあって、そんなところにも作者は特別な親しみを感じていたのかも知れません。
2月24日にてんびん座から数えて「隠れた領域」を意味する12番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身が取り結んでいる特別なつながりやそこに差す陰影の濃さに思いを馳せていくことになっていくはず。
「もう一人の自分」を育てるということ
人生で本当に辛いとき、苦しいとき、危機にある時、決定的に自分を救ってくれるのは、いつだって「もう一人の自分」に他なりません。
視線を感じるだけの場合もあれば、具体的な言葉をかけてくることもあり、そればかりはもう個人差と言わざるを得ませんが、ただここで大切なのは、そうした「もう一人の自分」というのはどうも「無駄な努力」や「酔狂な遊び」に興じている時間の中でこそ、育ってくるらしいということです。
逆に、徹底的に「無駄な努力」を省いて人生設計を合理化したり、「酔狂な遊び」を一切やめて“健全”になろうとすれば、次第に「もう一人の自分」はお化けのようになっていき、逆に自分の足を引っ張るようになるはず。冒頭のような句を「もう一人の自分」に送っていること一つとっても、やはり蕪村はそのあたりの感覚において卓抜したものがあったように思います。
今週のてんびん座もまた、彼ほどまでとはいかずとも、自身がこれまでにたしなんできた酔狂のちょうどいい塩梅を改めて探っていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
二人の自分を生きる