てんびん座
私は神をほとんどまったく知らない
宇宙と人生は似ている
今週のてんびん座は、『原子なき暗黒物質おもふ冬』(矢島渚男)という句のごとし。あるいは、物事であれ自身のことであれ「知っている」ふりをやめていくような星回り。
「ウクライナ前後」と題された50句のうちの一句。「暗黒物質」で「ダークマター」と読む。これは天文学的現象を説明するために考えだされた仮説上の物質のことで、“直接的に観測できず、ほかの物質とはほとんど相互作用しない”といった性質や特徴があるのだとか。
しかし、暗黒物質は「何物なのか」は現在も全くわかっておらず、わかっているのは「何物でないのか」ということだけ。すなわち、これまでの観測データから、暗黒物質は原子でできている物質ではなく、私たちが知っているどんな天体でも素粒子でもない、という結論が得られているのだそう。
ますます謎は深まるばかりですが、そうであればこそ冬空の凄まじさに圧倒されているかのような「おもふ冬」という結びがきいてくる。私たちは日常的に、「知っている」という言葉を気軽に使っていますが、掲句はそれとは対極の、「知らない」ということを自己の中心に落ち着いていく瞬間を詠んだものとも言えるのではないでしょうか。
1月26日にてんびん座から数えて「情報網」を意味する11番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自分が何を知っているのかよりも、何をどれだけ知らないのかということにこそ意識を向けていきたいところです。
リルケの「強力な夜に抗って」という詩をめぐって
普通なら語りえないことを語るのが詩人の役目だとして、それはしばしば「創造(クリエーション)」であると誤解されがちです。しかしそれは率直に言って思いあがりであり、実際には「翻訳」と言ってしまった方が適切ではないでしょうか。
世界に現に存在し、力をふるっていながらも、依然として符合以外の言葉を受け付けないものを、生きた言葉に置き換えること。ただし、翻訳と言っても忠実かつ正確な逐語訳は不可能であり、また既存のあらゆるテキストによらず、自分の口で語らなければなりません。例えば、詩人たちがしばしば雷のような一撃に打たれる夜についての詩は、こんな具合で語られています。
…この本来の夜の中へ
偽物の粗悪な模造の夜を引っぱり込み、
それで満足しなかった者がいただろうか。
私たちは神々を、発酵したゴミ溜めのまわりに放置している。
なぜなら神々は誘いかけてくれないからだ。
神々は存在するだけで、
存在以外のものではない。
過剰な存在でありながら、香りを放たず、
合図も送らない。
神の口ほど沈黙したものはない。
今週のてんびん座もまた、宇宙の側からの「感ぜよ」「思い出せ!」といったかすかな合図を受け取っていけるかどうかが試されていくでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
「知らない」ということを自己の中心に据えていくこと