てんびん座
はぐれ者としての流れ星
たまには空を見上げて
今週のてんびん座は、『ひさしぶり星を見てゐる鯨かな』(五島高資)という句のごとし。あるいは、応じるべき声にこたえていこうとするような星回り。
「鯨(くじら)」が冬の季語なのは、彼らがエサを追って日本の海域に回遊してくるのが冬期だから。人間は1分も水中に潜っているだけでも限界ですが、くじらは種類によっては1時間以上も潜っていられるのだとか。
水中深くに潜るとき、くじらの心臓は非常にゆっくりしたものとなり、そうして血液中の酸素が失われるのを防いでいるのだそう。そういう意味では、こまめに冬眠しているのと変わらないで、さながら水面にあがってきて潮を吹くのも、起きぬけに顔を洗っているような感覚なのでしょう。
起きたらまず顔を洗って、窓を開け、天気が良ければ太陽を拝む。ちょうどそんな感覚で掲句のくじらも夜空に煌々と照り輝く冬の星々を見ていたのでしょう。そうなると、上五の「ひさしぶり」というのは、星を見つけたくじら自身の声であると同時に、そんなくじらの視線に気づいて見つめ返している星の声であり、そんな情景を想像している作者の声でもあるのかも知れません。
12月27日にてんびん座から数えて「天の声」を意味する10番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ひさしぶりに空の方へと顔をあげてみるといいでしょう。
流れ星が教えてくれること
私たちの社会では、ボーっと遠くを眺めていたり、きょろきょろしながら歩いていると、「まっすぐ前を見なさい」とか「注意不足」等とたしなめられてしまうところがあります。
小さい頃から「前へ、ならえ!」と号令をかけられ、教習所でも「脇見運転をするな」と怒られ、正面に掲げられた大いなる目標に一分の隙もなくおのれをあずけ、文句を言わずにひたすら努力することが奨励されてきた訳です。さながら、エサを追いつづけて遠い海からやってきたくじら達のように。
ただ一方で、私たちにはそれと同時にすき間への欲望や、チラリと一瞥した世界との出会いへのどうしようもない憧れのようなものがあるのも確かです。脇見やよそ見をしたその一瞬にしか訪れない、流れ星のような大事なものが見たくて見たくてたまらない。
今週のてんびん座は、そんな微妙で、かすかな、わずかに、ちょっとした、見間違いのようなものをこそ大切にしていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
「ひさしぶり」