てんびん座
冬空の一部となる
水面下の営みの引き上げ
今週のてんびん座は、『天体が引き止めあへる冬と知る』(藤田哲史)という句のごとし。あるいは、これまで思い至らなかった誰かの苦労や努力へ目を向けていこうとするような星回り。
まず「天体が引き止めあへる」という言い方が面白い。ふつう「引き止め」というと、会社に退職する旨を伝えた際、上司などから思い留まるよう迫られることを言いますが、ここでは夜空の天体同士がそれを行っているという。
すなわち、夜が長くなり空気が澄み渡ってくるこの時期は、日没後に昇ってくるオリオン座から始まって、夜明けまでのあいだ12時間近くかけて冬の星座が夜空を半周していくのですが、それを天体同士が引き止めあっているがゆえの結果だと発想しているのです。
これは普通にはまず出てこない、思いもよらない発想ですが、なるほど言われてみれば、ピーンと張りつめたような厳しい冷気のなか、異様なほどギラギラと輝いていた冬の天体たち(これも単に「星々」とするよりその息遣いを間近に感じる)の醸す雰囲気を的確に捉えているように感じます。
人間が寝ている間に、彼ら天体は思いもよらない神経戦を繰り広げ、せめぎあい、絡み合い、しのぎを削りあっていた訳で、それにいったん気付いてしまったら、もはや知らぬ存ぜぬを貫きとおすことを難しくなってくるはず。
その意味で、11月8日にてんびん座から数えて「影の努力」を意味する8番目のおうし座で皆既月食を迎えていく今週のあなたもまた、身近な現実を支えていた水面下での営みにきちんと応えていくことがテーマとなっていきそうです。
共同存在的な感覚
人間は、より大きな全体の一部としてあることで初めて、存在し続けていくことができますが、それは事あるたびに自分を閉じて守ることに慣れてしまった人にとっては、とても恐ろしいことのように映るはず。
自分を開いたら、大事なものを傷つけられ、価値を奪われ、草をむしるように花を摘まれ、そのへんにポイ捨てされるのではないか、と体をトゲのようにこわばらせては、花開くことを拒絶する。それもまた人間の現実です。ですが、どうかぜひ、そうした人間中心の世界から一歩外へ出て、自身もまた「引き止めあへる天体」の1つになったつもりで過ごしてみてください。
うまくけば今週のてんびん座もまた、冬の夜空に輝く無数の星座たちのように、好いたり嫌ったり葛藤しあいながらも、相互に関係しあいつつ存在することの不思議さに、改めて触れていくことができるかも知れません。
てんびん座の今週のキーワード
上には誰がいる。下には誰がいる。隣りには誰がいるのだろうか。 特別というものはなく、単に魂の過程に見合った役割の業(橋龍吾)