てんびん座
なぜ人は勉強するべきか
社会化された不安のただ中で
今週のてんびん座は、良心に基づいて命令を無視する兵士のごとし。あるいは、不本意な「空気」や「雰囲気」に抵抗していこうとするような星回り。
現代史、特にホロコーストの研究で知られる歴史家のクリストファー・ブラウニングは、ごく平凡な市民で構成された第101警察予備大隊が、無抵抗なユダヤ人の大虐殺に短期集中的に荷担した事実にとどまらず、その心理にまで踏み込んで次のように述べています。
ひとたび状況に巻き込まれると、人びとは、不服従や拒絶を一層困難にする、一連の「拘束要因」ないし「凝固メカニズム」に直面する。状況の進行は、新しい、あるいは対立するイニシアティヴを採りづらくする。「状況的義務」ないしエチケットは、拒絶することを、不適切で、無礼で、義務に対する道徳的違反であるとさえ思わせる。そして、服従しないと罰を受けるのではないかという社会化された不安が、さらに抑止力として働くのである。
こうした一連の集団心理はいつの時代も「普通の人びと」にはつきものですが、特に今の日本のような社会状況においては、先の記述の中にあるような「社会化された不安」に身動きを封じられないよう、特に警戒していく必要があるのではないでしょうか。
13日にてんびん座から数えて「雰囲気」を意味する4番目のやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからを取り囲んでいる雰囲気にどのように向き合っていくべきかということが一つのテーマとなっていくはず。
哲学者ラッセルの助言
ラッセルは「幸福をもたらすもの」というエッセイの中で、「この世の有益な仕事の半分は、有害な仕事と闘うことから成っている」というリアリストらしい意見を披露していますが、一方で「私心や下心のない好奇心」を持つことの大切さについても強く力説しています。
いわく、人は自分の利害に関係のあることだけに熱中し、それが人間の活動全体のうちでいかに微々たるものなのかを忘れがちであるとした上で、「知識を身につける機会があれば、たとえ不完全なものでも無視するのは、劇場へ行って芝居を観ないのと同じだ」と述べるのです。
確かにこの世界は、悲劇的かつ喜劇的であるばかりでなく、奇怪な、また不思議な物事に充ちており、「世界の提供するこの壮大なスペクタクルに興味を持てない人びとは、人生の差し出す特典の一つを失っている」のかも知れません。
今週のてんびん座もまた、そんなラッセルの助言に従って、差し当って自分の利害に直結しないだろう物事や知識へ積極的に手を伸ばしてみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
豊かな教養とは好奇心を失わずに育て続けていくということ