てんびん座
吐息と解放
こちらは7月19日週の占いです。7月26日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
浦=ウラ=心の景観
今週のてんびん座は、島尾敏雄の『出孤島記』の一節のごとし。あるいは、追い詰められた重苦しいさから一時的に解き放たれていくような星回り。
南海の孤島にたてこもり、180名の部下たちと特攻作戦に従事し、逃れられぬ死の呪縛の中で出撃命令を待つ局限的な状況を描いた戦記小説である島尾敏雄の『出孤島記』には、特攻隊の基地のある浦の陰を描くとは対照的な筆致で書かれた、浦の外側、その外界へと抜ける岬の描写があります。
外側は空気が動いていた。そして限界が広く開けた。
入江うちが淀んで凪いでいても、此処に来て、足を一歩入江そとの方にふみ出すと、風が耳のうらを鳴って通り、身体の中に飼っている鳩が自由なはばたきをあげて飛び立つ思いをした。
沖合の波は白く穂立ち、かもめがゆるく舞っていた。そして入江は海峡に大きく口を開き、その海峡越しに、はるか向うの島の山容、海岸沿いの県道の赤い崖崩れなどが、痛いようにこちらの気持に手を差し伸べて来た。
入江うちでの重い荷のようなものが、背中からはがれ落ち、私は軽々と自分自身になって、何の才能も技能もないままの姿を浜辺に伏せることができた。
島尾にとって、この岬の鼻が特別の昂揚感と自由さとともに描かれたのは、その隣村に住むひとりの女性のためでもありました。言うまでもなくそれはのちの島尾夫人ミホだったのですが、この浦の外側へと抜けていく描写は、本来は決して交わりえない、軍という公的世界の規律が海=女性という自然の律動へと開けていく奇跡的な交わりの光景でもあったのです。
24日にてんびん座から数えて「躍動する心模様」を意味する5番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな規律から律動への開けと軌を一にしていくところが出てくるのではないでしょうか。
2種類の「息の合う」関係
島尾とミホは、端的に言えば世の常識を超えて「息の合う」相手であったのでしょう。生まれてきたその日から、私たちはつねに息を吸い、やがて息を引き取るその日までそれは続いていく訳ですが、息が合うのにも「吸う息」と「吐く息」の2種類があるように思います。
まず「吸う」は英語で「inspire」であり、名詞形にすれば「インスピレーション」になります。若い頃などは、同じ精神やノリを共有できる相手をこそ最良の友と考えやすい。それが間違いという訳ではないのですが、必ずしも絶対的なものではないでしょう。
なぜなら、人間の生き様というのは、何に影響を受けたかよりも、周囲にどんな影響を与えていくか、ということによって規定されてもいくからです。そしてそれは、「吐く息」の合う相手かどうかの基準でもあるはず。
今週のてんびん座は、自分が合っているのは、または、合わせていきたいのはどちらの息なのか、一度考えてみるといいかも知れません。
てんびん座の今週のキーワード
身体の中に飼っている鳩が