てんびん座
月とビジョン
無意識の行き来
今週のてんびん座は、「月光は月へ還りぬ凍てながら」(矢口晃)という句のごとし。あるいは、遠くに在りて思うべきものを見上げていくような星回り。
月と言えば、つねに人間世界の彼方にあって、まるで幻想のようで、何かの役に立つ訳ではないアナザーワールドですが、日本では古来から死んだ魂が還っていくあの世とされてきました。
掲句は、そんな魂だけでなく、月から投げかけられた月光もまた地球に届きっぱなしなのではなく、月へと還っていくと言うのです。植物の繁茂や潮の満ち引き、人間の月経やさまざまな生命の繁殖をひと通り見届けたら、暗く寒々しい宇宙空間を通過して、もときた場所に戻っていく。
あるいは、もしかしたら知らず知らずのうちに私たちの魂の一部は、そうした月との往還を果たしているのかも知れません。例えば、満月の晩あたりに。
けれども、その全貌を知るのはおそらく私たちが死んだ魂となって丸ごと月へと還る時でしょう。知らないはずなのに、道を知ってるのはなぜだろう、とか。そんなことをきっかけにして。
30日にてんびん座から数えて「近くて遠い未来」を意味する9番目のふたご座で月蝕の満月を迎えていく今週のあなたにおいても、普段なら特別意識することのないみずからの魂がもっている遠い射程についての実感が自然と湧いてきやすいはず。
思い残しを回収すること
人は誰であれ、目先のものではなく、遠くを眺めているとき、いい表情になるもの。ドラマや映画などのラストシーンに頻繁に海が登場するのも、おそらく同じ理由からでしょう。
ただ、海を眺めている人は、決して海を見ている訳ではありません。あくまで海の向こうを眺めているのであり、はるかかなたに心を遊ばせているのです。
地球の歴史を振り返ってみると、これまで陸地が優勢になる「陸盛期」と海が優勢になる「海盛期」とを交互に繰り返してきたそうですが、その中で現在の生物誌を彩る多くの脊椎動物は長きにわたる水中生活に別れを告げ、陸上生活に踏み切ってきました。
そういう意味では、生物ヒエラルキーの頂点に立っているはずの人間がいまだに海に後ろ髪を惹かれてしまうのは、進化の過程で取り残されてきた生き物たちの無念や、あえて海に留まることを選んだ生き物たちの愉悦を改めて我がこととして取り込もうとしているからなのかも知れません。
その意味で、今週は自分がこれまでにしてきた選択を振り返りつつ、できなかったことや潰えた夢の無念を明らかにし、これから先のビジョンの輪郭を整えてみるといいでしょう。
今週のキーワード
子宮回帰願望