てんびん座
見えないものを見通す
秋風の中の辞世句
今週のてんびん座は、「秋風にあらざるはなし天の紺」(高橋馬相)という句のごとし。あるいは、自分自身もまた秋風に溶け入っていくような星回り。
「天の紺」とは、秋になって一段と高くなった空の深い色合いのこと。そんな「天」から地上まで、さまざまな高さや場所で風が吹いているけれど、いずれにおいても秋風でないものはなく、すべての風が秋風であり、あらゆるものが吹きわたる秋風に包まれている。生きているものも、そうでないものも、物はいつか形をなくし、透明になっていく。そして、作者自身の肉体もまたその例外ではありませんでした。
掲句は辞世の句の一つであり、作者は慶応大学医学部を出た勤務医でしたが、昭和21年に40歳で病没しています。残り僅かな生のひと時において、作者の目にはこの世のあらゆるものが透けて見えていったのではないでしょうか。
高浜虚子は「秋風や眼中のもの皆俳句」と詠んで、秋風が吹くころは目に見えるすべてのものはみな俳句になると記していましたが、作者にとってはみずからの死んで別の何かへと産まれ変わりつつある姿もまた見えていたはずです。
9月22日に自分自身の星座であるてんびん座へと太陽が移っていく今週のあなたもまた、自分の身が秋風に吹かれるたびに透明になって、何か別様に生まれ変わっていくのを感じていけるかも知れません。
これからを占う
別の言い方をするなら、しばらくの間あなたの中で停止していたものが、今にわかに再起動しつつあるのだとも言えます。それに当たって、あなたは自分を再起動させていくために最適なアングル(眼の遣りどころ)を見つけていこうとしているのでしょう。
同じ場所に立っていたとしても、眼の遣りどころが変わればまったくの別の景色になってしまうように、今週のあなたは、どんな場所、どんな視野から力を借りていくかによって、これからどんな自分になっていくのかを占おうとしているのです。
さながら、命果てる先まで見通そうとする俳人としての本能が、死を間近に感じた作者の中で改めて鮮やかに芽生えていったように。
今週のてんびん座もまた、あなたなりの感性と身体性を頼りに、この世界やこれからの自分の身の置き所を、自分らしいアングルから切り取り、描き出してみるといいでしょう。
今週のキーワード
目に見えるすべてのものはみな俳句になる