てんびん座
養生=芸術
人間の向上とは何か
今週のてんびん座の星回りは、野口晴哉の説いた「養生」のごとし。すなわち、苦しむことを拡げていくということ。
「整体」の産みの親である野口晴哉(のぐちはるちか)は、語録集『偶感集』に収録された「雨」という断章の中で、「人間の生きているのは苦しむ為だ。その苦しむことが楽しくなる迄、生きていることを養生という」と述べています。
これに対しては、犬や猫や他の生き物はみな苦しければ逃げるのに、人間だけがそうしないのは本能が壊れているからだという指摘もあるかも知れません。
しかし野口は関東大震災を経験していましたから、そのことはよく分かった上で上記のように述べたのでしょう。そして、こう続けるのです。
「人間は自分の心身が苦しいことだけが苦しいのではない。他人の苦しみにも苦しむ、世界の一切の動きにも苦しむ。(中略)動物の苦しみから人間の苦しみへの展開こそ、人間の向上だ。その苦しみに徹し、苦しむことが楽しくなる迄、苦しむことだ。」
6月13日にてんびん座から数えて「ケア」を意味する6番目のうお座で、下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、何に力を入れ、どこから力を抜いたらいいのか、軌道修正をかけていくことがテーマとなっていきそうです。
どうしたら苦しむことを楽しめるか
例えば、俳句という文芸は五・七・五の十七文字という制限の中で天地の動きやそのはざまで揺れ動く人の情を盛り込んで、それを自分自身の反映として表現していく訳ですが、なぜわざわざ好き好んでこんな不自由をするのでしょうか。
野口晴哉はやはり「形 その心」という断章において、こうした問いに対し次のように述べています。
「しかし人の心に訴えるものは、訴えたことではなく、訴えられぬ心である。所作の余白が心を動かすのであり、芸術が心によって心を対象として行われる限り、余白を尊ぶのは本当であり、或る形に心を盛り込むことは、その余白を拡げることであり、従って余白を活かすために或る形への制限が必要になったのだろう。」
つまり、ここにおいて先の「苦しむことを拡げていく」養生は、芸術において余白を拡げるための創造的努力へと結びついていく訳です。
今週のてんびん座は、仕事にしろ趣味にしろ、それくらいのつもりで打ち込めるものを大切にしていくといいでしょう。
今週のキーワード
野口晴哉『偶感集』