てんびん座
散歩とジーンズ
精神の弾力性
今週のてんびん座は、「ジーンズに腰骨入るる薄暑かな」(恩田侑布子)という句のごとし。あるいは、気が重くなりがちな場所にも軽快に足を延ばしていくような星回り。
「薄暑(はくしょ)」とは、初夏のすこし汗ばむくらいの暑さのこと。洗いたてなのか、下ろしたてか。穿くだけでどこか気持ちが浮き足立ってくるような、ジーンズのあのゴワゴワ感さえ伝わってくるかのような一句です。
12星座はそれぞれが身体の特定の部位と対応しており、てんびん座は体全体の動きのバランスを取っている“腰”にあたるのですが、ジーンズを穿いてウェストのボタンを締める時の、あの体全体を束ねていくようなキュッとする感覚は、かえって心を軽く自由にしてくれる効果があるように思います。
思えば、社会人になって仕事着やスーツ姿でいることが大半になってくると、ジーンズを穿くのも近所のコンビニに行く時くらいになってしまうものですが、掲句のように詠まれると、夏のジーンズには精神の弾力性を取り戻してくれる魔法の力があったことを思い出させてくれますね。
6月6日にてんびん座から数えて「生き返り」を意味する3番目のいて座で、満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな魔法のスイッチをどこかからか見つけてきてはサッと押していくことで精神や動きの弾力を取り戻していきたいところ。
リズムとスイッチ
文豪ディケンズは、日々の日課として、また創作のヒントを得るため、あてどない散歩にいそしんだと言われています。
散歩やぶらつきというと、仕事の生産性に直接関係しない無為な時間と思われるかも知れませんが、手も足も自由な暇な時間や、意識の空白というのは、日常から一歩離れて生の全体を見渡すためには欠かせない必要条件と言えるのではないでしょうか。
例えば、俳句の5・7・5というリズムも、古代の舞踏のリズムや、海洋民がオールを漕いでいたときのリズムにその起源があるとも言われていますが、いずれにせよ座ったまま、足を窮屈にしている状況からは、伸びやかなリズムというのは決して生まれてこないのです。ただじっとしていると、どうしても言葉が煮詰まってきて、スムーズに流れなくなる。
その意味で、今週は歩くリズムや、踊るリズム、オールのリズムなど、自分に合ったリズムを身体に刻んでみることで、自分なりのスイッチの入れ方を探ってみるのもいいでしょう。
今週のキーワード
楽器としての身体と精神