てんびん座
余計なことはせずに見守る
ただにんまり
今週のてんびん座は、「頭悪き日やげんげ田に牛暴れ」(西東三鬼)という句のごとし。すなわち、いいぞもっとやれと微笑をたたえていくような星回り。
作者は春から初夏に変わって空気がいよいよ生暖かくなってくると、「頭の脳はドロリと濁ってしまって考える力もなく阿呆になる」と述べていますが、掲句はまさにそうした濁りが極まった日の散歩時にでも見かけた光景なのでしょう。
「げんげ」は「蓮華草」がなまって短縮した名称で、田んぼなどにうす紫色の花を一面に咲かせている様子が遠くから見ると紫色の雲のようであることから「紫雲英」とも表されます。
機嫌のわるい牛はそんなやさしげな花の色も気に喰わないのか、つながれた綱をピーンが張っているのもおかまいなしに、後ろ脚を跳ね上げて暴れている。そんなずんぐりした巨大で鈍いけだものを目にして、作者は知らん顔するのでも、眉をひそめるのでもなく、ただ「同類を見つけたぞ」とにんまりしているのです。
もしかしたらその暴れ牛は、「自分もこうできたらいいな」と作者が感じるロールモデルとなっているのかも知れません。
7日にてんびん座から数えて「愛着とその蓄積」を意味する2番目のさそり座で、満月が起きていく今週のあなたもまた、自分の好みにぴったりの‟写し身”やその所作をみずからのものとしてトレースしていくことがテーマとなっていくでしょう。
麒麟のごとく
麒麟という聖獣について聞いたことはあるでしょうか。『説文解字』という3世紀頃の書物によれば、「龍の頭部」に「鹿の胴体」で、「頭に一角」があるとされ、さらに、「生きた虫を踏まず、生きた草を折らない。角があるのに、それで害をしないが故に聖獣」であり、麒麟は百獣の王であるが、それはライオンのように単なる弱肉強食的な強さではないとされています。
中国では古来より将来有望な大物が生まれると麒麟が現れるという言い伝えもありますが、どうも現われるだけで何もしないのです。「千尋の谷に突き落とす」とか、「キビ団子をもたせて家来を作らせる」とか、これはと見込んだのなら普通はするであろう実際的なことを何もしない。
ただ直接手を出すようなことは一切しない代わりに、まっすぐに見守り、あるかなきかのごとくに寄り添い、そしておそらくは祈っている。それはどこか、げんげ田の暴れ牛に対する西東三鬼の在り様に重なるように思います。
今週は、「手を出す」以外の仕方で、誰か何かに自分の存在を傾けていくことができるかが問われてくるでしょう。
今週のキーワード
自分と似た稀なる相手をこそ探すべし