てんびん座
生命的なものの萌芽
曲がるスプーン
今週のてんびん座は、「光る風映して曲がるスプーンかな」(五島高資)という句のごとし。あるいは、これまで心の奥底にしまいこんでいて思いが一気に表出していくような星回り。
「光る風(風光る)」は、春風にゆられる景色がきらきらと光り輝くように感じられることをいう春の季語。
掲句では、そんな可視と不可視のはざまの光景がスプーンの曲線に映っている様子が詠まれている。その際、普通なら「スプーンよ」としたくなるところを、あえて「かな」と字余りにすることで、その不可思議さを打ち出すことに成功している。
しかし、ここでふとそういう解釈でいいのか、とも思う。 もしかしたら「曲がるスプーン」とは、流線形にデザインされた自然なカーブのことを指しているのではなくて、超能力的な力で不自然に曲がってしまったスプーンの様子を捉えたものなのかも知れない。
そういう視点で改めて句全体に目を通すと、これまでとは違った妖気を立ち昇らせた春の光景がそこにあることに気が付く。
8日に自分自身のサインであるてんびん座で満月が起きていく今週のあなたもまた、自分で思っていたのとは違う姿をみずからの中に見出していくことになりそうだ。
イワンの奥底
例えば、ドフトエフスキーの大長編小説『カラマーゾフの兄弟』には、理詰めの無神論者であることを自他ともに認める次兄イワンが、敬虔な信仰心の持ち主である末弟アリーシャに対して、次のようなことばを漏らすシーンが出てくる。
「生きたいよ。おれは理論に逆らってでも生きるんだ。たとえ事物の秩序を信じていないにせよ、おれにとっちゃ、春先に<芽を出す粘っこい若葉>が貴いんだよ。」
この不意打ちのような一言によって、読者は無神論者であるはずの彼の心の奥底に、じつは生命的なものへの愛が潜んでいることに気付く訳ですが、これなどはまさに「曲がるスプーン」のごときものと言って差し支えないはず。
そして、最初から篤く神の摂理とこの世界の秩序を信じているアリーシャの口からでなく、イワンの口から発せられている点に、人間の複雑さに対する、ドフトエフスキーの厳しくも優しい眼差しを感じていく。願わくば、今週のてんびん座もまた、自分自身にそうした詩人的な眼差しを向けていきたいところ。
今週のキーワード
風光り、若葉萌える