てんびん座
生活に夢を浮かべる
自分と真摯に向かいあう
今週のてんびん座は、「冬曇身の行末を機械にもたれ」(細谷源二)という句のごとし。あるいは、ふたたび生活にうるおいを与えていかんとするような星回り。
俳句の社会性ということがよく言われますが、生活の中で発生するやり場のないストレスへの反動からか、得てしてやたらとスローガンっぽくなるか、愚痴っぽくなってしまいがちであるように思います。
工場労働者の生活俳句を提唱した作者は、戦争中には新興俳句弾圧事件で二年半もの牢獄生活を経験した一方で、
「そうしたとげとげしい階級意識を剝き出しにすることではなく、はたらく人間の常に追いもとめる美を生活の中からつかみ出し文学に創り上げることで、生活にうるおいを加えるために生活俳句は存在すると言っても過言ではない」
と述べていました。
掲句が湛えているのも、政治的な思想性や断固たる反骨精神というより、生活体験の深まりと抒情性でしょう。作者は俳句を通じて、何かじかに生きようとする自己を掴み取ろうとしているのであり、そうした類いの真摯さこそ、今のてんびん座に必要なものなのだと言えます。
12月3日(火)に「拡大と発展」の木星が約1年ぶりに星座を移り、てんびん座から数えて「地に足のついた生活」を意味する4番目のやぎ座へ入っていく今週のあなたもまた、消費や発散ではない仕方で、生活の中で深まり落ち着いていく自分を感じ取っていきたいところです。
創作の秘密
映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J・R・R・トールキンは、『指輪物語』の草稿を執筆しながら、地図やスケッチを描くことで物語に情報を加え、アイデアを試していったのだそうです。
トールキンにとって、「書く芸術」と「描く芸術」は密接に絡み合っていました。
物語の舞台となった「中つ国」の地形を、さまざまな角度から描き出し、そこに漂ってくる雰囲気の中に物語の兆しをとらえていく彼の試みは、先ず何よりも彼自身をとりこにしたようです。
彼は文字通り、生徒からの提出物の採点の合間であれ、家族と過ごす休日の最中であれ、時間も場所も状況もおかまいなしに、時間があけばスケッチにとりかかり、その行為に夢中になっていたそう。
トールキンほどの酔狂ぶりまでは行かずとも、今週のあなたもまた、そうした私的な愉しみをどこまでも掘っていくような愉悦の感覚を深めていくことがテーマなのだと言えます。
今週のキーワード
生活俳句