てんびん座
自然な呼吸で「開けゴマ」
秋風に誘われて
今週のてんびん座は、「秋風に吹かれて開く扉かな」(篠原温亭)という句のごとし。あるいは、ふと異世界へ片足を突っ込んで行ってしまうような星回り。
秋風に吹かれた、それだけで開いてしまう扉であるなあ、というのが句意。ただ、これは引き戸ではありえないから、両開きの扉だろう。
鍵はかけられておらず、そのまま開け放たれていて、風に吹かれてゆっくりと開いた。個人宅ではまずそういう造りにしていることはないから、どこかの通り沿いの飲食店や店舗の入り口が通りがかった際にたまたま開いたのかも知れない。
まだ全自動ドアが当たり前になる以前の世界の風景であり、平明な描写ではあるが、同時にどこか不穏さが漂う。
ふいに吹いた秋風。人恋しさに誘われて、もしそこに入っていったなら、異世界にたどり着いてしまったとしても何ら不自然ではない。それだけ、昔から秋風というのは、人々にとって生活や心の変化を引き起こす非常に特別なものだったのだ。
中秋の名月から下弦の月へ。徐々に光を減じていく今週の世界の中で、あなたはどんな道や行先へと誘われるのか。いつその瞬間が訪れてもいいように、今週は胸の内側をいつも以上に丁寧に見つめていくといいだろう。
自然と空気が漏れだすような
詩人の最果タヒは、イラスト詩集『空が分裂する』のあとがきで、自身が詩を「なんとなく、書き続けてきた」経緯について、次のように振り返っています。
「創作行為を「自己顕示欲の発露する先」だという人もいるけれど、そうした溢れ出すエネルギーを積極的にぶつける場所というよりは、風船みたいに膨らんだ「自我」に、小さな穴が偶然開いて、そこから自然と空気が漏れだすような、そんな消極的で、自然な、本能的な行為だったと思う。誰かに見られること、褒められること、けなされること、それらはまったく二の次で、ただ「作る」ということが、当たり前に発生していた。」
この「自然と空気が漏れだすような」というところは、きっとこれまでいた世界とはまったく別の異世界へ足を踏み入れていく際にも大切な事なのではないでしょうか。
どうしても人と同じ道を歩めない自分を、ただそういうものとして受け止め、息をするように自然に打ち出していく。今はそんなところに落としどころを見つけていきたいところです。
今週のキーワード
押したり引いたり開いたり