てんびん座
存在の乱反射
存在物の相依相関
今週のてんびん座は、「耳は葉に葉は耳になり青葉闇」(堀本裕樹)という句のごとし。あるいは、自分が自分でなくなっていくような不思議な感覚を覚えていくような星回り。
「青葉闇」とは昼の青葉のしたの薄闇のこと。そこでは不思議なことが起きる。自分の耳が木の葉になり、上に見える木の葉が耳になっていくと言うのです。
さながら白昼夢のような非現実的で異様な光景ですが、と同時に、人と木とが種の垣根をこえて同化していく掲句の様子はどこか瞑想的な静けさと安らぎを覚えさせてくれます。
また、句中には「葉」という文字が三度繰り返されています。それも何かの呪文のようで、実際に声に出して読んでみると、風にゆられる木の葉の音だけがどこまでもこだましていくようで、日常的感覚がズラされていくように感じられてくるはず。
作者の故郷は霊地・熊野であり、掲句も『熊野曼荼羅』という句集に収録されたものの1つなのですが、この世にはもしかしたら実際にそういう場所もあるのかもしれませんね。
今週のてんびん座もまた、これまで無意識のうちに引いてきていた一線や境界線が、ふと気が付くとゆるんだり、消えていたりといったことが起きてきやすいでしょう。
松岡正剛がボルヘスを明治神宮に案内した話
当時80歳でほとんど失明状態だったボルヘスは、玉砂利を踏む人々の足音に耳を傾けつつ、何かを比喩に置き変えようとしていたのだそう。
しかも、ボルヘスは神社の見かけや構造など目に見えない景色を必死に想像していたのではなく、「これを記憶するにはどうすればいいか」というようなことを、ぶつぶつと呟いていて、それはこんな調子だったという。
「カイヤームの階段かな、うん、紫陽花の額にバラバラにあたる雨粒だ」
「オリゲネスの16ページ、それから、そう、鏡に映った文字がね」
「日本の神は片腕なのか、落丁している音楽みたいにね」
「邯鄲、簡単、感嘆、肝胆相照らす、ふっふふ…」
まるで、熟練のダンサーが新たなステップを生み出していくようではありませんか。
今週のあなたは、暗闇の中で踊るダンサーのごとく。
あるいは、余計な雑音をシャットアウトして、研ぎ澄まされた感覚の奥から聞こえてくる内なる声に従って動いていくことがテーマなのだとも言えるかもしれません。
今週のキーワード
ダンサー・イン・ザ・ダーク