てんびん座
ぶらぶらの効用
「手ぶら」になること
今週のてんびん座は、「春宵のやつと手ぶらになる時間」(日隈恵里)という句のごとし。あるいは、ただ「在る」ことの豊かさに、不意に気付いていくような星回り。
冬と違って日も長く、やるべきこともなんとか一段落つけられる頃にやってくるのが春の夜。作者は、どこかぬるりとした生暖かさに包まれる夜の散歩などに繰り出して、どこからか漂ってくる花の香りと、自分でも不思議なほどのトリップ感を味わったのかもしれません。
いつもと違う実感を自分の中に発見すると、なんだか嬉しくなる。
掲句では「手ぶら」という言葉がそんなちょっとした高揚感を的確に浮き彫りにしていて、力が抜けつつも手抜きにはなっていない、実に豊かな一句だなあと感嘆してしまいました。
5日(金)に自分と反対側の星座であるおひつじ座で新月を迎えていく今週は、例えばそんな風に、せわしない日常のなかでつい手にしてしまう武器だったり、個としてのはっきりとした輪郭を手放して「手ぶら」になっていくことで、自分の中にある豊かさを、新鮮な気持ちで再発見していくことができるはずです。
心を虚しく
「多くの歴史家が、一種の動物に止まるのは、頭を記憶で一杯にしているので、心を虚しく思ひ出す事が出来ないからではあるまいか」
という小林秀雄の言葉を借りれば、今週のあなたはまさに心を虚しくして、そこで何かしら自分の心にひっかかってくるような、かけがえのない繋がりを感じられるかどうかが問われているのだと言えます。
横にいたら嬉しい、いなくなったら寂しい、そんな当たり前の感情を、多くの人はつまらない屁理屈で台無しにしてしまいますが、小林は先の言葉の前に次のようにも書いています。
「思ひ出が、僕等を一種の動物である事から救ふのだ。記憶するだけではいけないのだらう。思ひ出さなくてはいけないのだらう。」(『無常という事』)
今週あなたは、何を思い出すのでしょうか?
そこで想起されてくるものがどんなものであれ、しかと胸に刻んでいきましょう。
今週のキーワード
無常に咲く花